第2章 本気の裏側
テストの種目は再びソフトボール投げに移った。
爆豪を除く二十人の生徒たちは、自分の個性を存分に発揮して中学時代の記録を次々と塗り替えていく。
中でも、無重力の個性を持つ麗日が計測不可能な記録を叩き出すと、授業内で最大の歓声が巻き起こった。
無限という言葉に誰もが憧れを抱いた。
やがて、前の生徒の投球が終わり、結の番が訪れる。
しかし、自然に投げ渡されるはずの球は相澤の手の中に収まったまま。
一歩、また一歩と結は距離を縮めるが、球はまだ離れようとしない。
相澤のモットーである合理主義とはかけ離れた行動は、まるで合理主義を超えた何かが彼をそうさせているかのようだった。
結が「そのボールください」と意思を込めて両手を差し出すと、相澤は瞼を閉じて、ようやく球を結の手のひらに乗せた。
それでも手が離れることはなく、そっと置いただけ。
結は片手で球を掴んだが、相澤の手に根を張ったようにびくともしなかった。
「あの、ボールを……」
「お前、まだ力抜いてるな?」
相澤は「本気出してないだろ」と言わんばかりに圧力をかけた。
一部の生徒は汗を拭ったり、肩で息をしたりと疲れが見える中、結の気楽な姿が目立っていた。
「まさかとは思うが、除籍処分を避けられればいい、なんて考えてないだろうな?」
「……いや?」
「図星だろ」
なんとか声を絞り出したが、結の目は無意識に泳いでしまう。
その様子は相澤にとって説得力が欠けているのが明白だった。
鋭い視線は心の奥底を暴こうとするように突き刺さり、結は言葉を詰まらせた。
これほど早くに説教を受けるとは思いもせず、恐ろしい相澤の顔を直視できずに視線を落とす。
「今から本気で取り組め。残り三種目も楽に終わろうとしてるの見えてるぞ」
相澤が全力や本気を強調する一方で、結には最下位を回避しつつ、ほどほどの力でテストを終えたい小さな対抗心があった。
唇を尖らせ「絶対に除籍はされないのに……」と呟いた言葉は、すぐにドスの効いた声にかき消された。
厳しい眼差しが結を試すように見つめる。
結は眉を少し顰めながら、覚悟を決めて足を半歩前に進めた。