第15章 弱さに宿る力
「かかってこいや、全部ぶっ壊してやる」
挑発的で確信に満ちた彼の声も、結には届いていなかった。
結の視線は焦点を失い、空を漂う破片は不規則に震え、揺れていた。
ふらつく視界の中に映ったのは、観客席ではなく実況席に座る相澤の姿だった。
――そうだ、本気で戦っても無駄なのに。
私、爆豪くんに乗せられた……使わなきゃって、思わされた。
胸の奥が冷たく重く沈んでいくような感覚に囚われながら、結の心は次第に空っぽになっていく。
「がんばっても……意味……ないのに……」
「――あ?」
爆豪が問うよりも早く、結の身体はふらりと崩れ落ちた。
糸が切れた操り人形のように倒れ込むと同時に、宙を舞っていたセメントの破片は重力に従い、一斉に地面へと崩れ落ちた。
爆豪の瞳に動揺が浮かび、納得がいかない様子で結のもとへ大股で歩み寄っていく。
地面に倒れた肩を掴み、荒々しく揺さぶる。
だが、その手から伝わる感触は彼の予想を裏切った。
「……千歳さん行動不能! 爆豪くんの勝利!」
『い、色々あったが……決勝戦は轟、対、爆豪に決定だ!』
実況の声もどこか落ち着きを欠いていた。
場内アナウンスは競技場の修復作業が完了次第、決勝戦が開始されることを告げる。
その間に、結は迅速に担架へ乗せられ、リカバリーガールの元へと運ばれていった。
爆豪は最後まで結の考えを理解できず、遠ざかっていく担架をただ黙って見つめていた。
救助訓練時と同様に、胸の奥に広がるモヤモヤとした感情はいくら振り払おうとしても消えることはなかった。