第14章 勝利の苦味
第四試合目、切島と爆豪の対戦は、拳と爆風がぶつかり合う激しい戦いを繰り広げていた。
観客たちは、攻撃を耐え抜いた切島が反撃を仕掛けるのだろうと期待していたが、爆豪は早い段階で彼の弱点を見抜いてしまった。
切島の個性「硬化」は、全身を硬化させることであらゆる攻撃を防ぐことができる。
しかし、その硬化は精神的な集中と持続的な緊張によって成り立っていた。
どこか一箇所にヒビが入れば、そこから綻んでしまう。
そんな切島のよろめきを見逃さずに、爆豪は容赦なく連続で爆破を叩き込んでいく。
切島は耐えきれずに気を失い、勝者は爆豪に決定した。
これで決勝に進むための四人、轟、飯田、結、爆豪が出揃った。
『準決! サクサク行くぜ! お互いエリート家出身のエリート対決だ!』
そして、準決勝第一試合。
轟と飯田の対決が幕を開けようとしていた。
その熱狂から遠ざかった控え室で、結は実況の声に耳を傾けながら次の試合に備えていた。
震える右手を握りしめ、何度か深呼吸を繰り返す。
右手に感じる痺れは緊張という言葉で片付けられるものではなく、身体の奥底から湧き上がるものだった。
これまで実力で相手を圧倒してきた爆豪が次の対戦相手。
たとえ相手が爆豪でなかったとしても、胸を押し潰すような感覚は消えることはなかっただろう。
「……大丈夫……すぐに白線に向かえば……」
かすれた声で自分に言い聞かせ、頭の中で戦い方をシミュレーションする。
だが、こちらの動きは全て見透かされてるかもしれないと、不安がため息となって吐き出された。
すると、実況の声がひと際大きくなった。
どうやら轟と飯田の試合は最終局面に差し掛かったらしい。
結は重い腰を上げ、椅子から立ち上がる。
心臓の鼓動が一段と速くなったように感じていた。
結にとってこれが最後の試合になるだろう。
大きく息を吸い込むと、冷たく重みを感じる控え室の扉を開け放った。