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お友達から始めよう【ヒロアカ】

第14章 勝利の苦味



「……でも、ごめんね。この戦いは勝たなきゃいけないから」


 小さな声は常闇への宣言であると同時に、自分自身への決意のようでもあった。
 できる限りの力で握りしめた右手は、冷たい汗で湿っている。
 目を瞑って思い浮かべたのは、とある男の姿だった。
 彼の個性は数回しか見たことがないが、結は今この場で使える自信に満ちていた。

 頭上から降り注ぐセメントの破片が崩れ落ち、黒影が音を立てて横切る。
 その瞬間、結は隙をついて壁を乗り越え、常闇の方へと駆け出した。


「なっ、黒影……!」


 常闇の声には動揺が混じっていた。
 彼の指示に従って黒影は正面に立ちふさがり、食い止めようとする。
 だが、その位置は結にとって理想的だった。

 掲げた右手のひらに青白い輝きが宿り始める。
 じんわりと熱が広がり、指先が微かに震えた。


『なんだァ!? 千歳の右手に青い光……いや、これは炎か!? 轟のと似てるが色が違う、青いぞ!?』


 マイクの興奮した声が競技場に響く。
 黒影の勢いを止めたのは、結の右手から放たれた青い炎だった。
 どこか冷たさを孕んだ光だが、確かな熱を伴っていた。

 青い光が黒影の動きを鈍らせると、結は躊躇なく常闇の腕に触れた。
 黒影の弱点は光。
 騎馬戦や戦闘訓練の際に共有されていた情報は、この場で的確に活用されていた。


「時間勝負する? 常闇くん」
「……いいや、まいった」
「常闇くん降参! よって、千歳さん準決勝進出!」


 炎を放つ右手を横目に、常闇は諦めたとばかりに息を吐いた。
 歓声が湧き上がる中、結は常闇に左手を差し伸べ、立ち上がらせた。

 この手で掴み取った準決勝への道。
 それは結の胸に喜びを灯すが、次の対戦相手の姿が頭をよぎるたびに圧迫感のある不安に襲われていた。


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