第14章 勝利の苦味
怒涛の戦いが続く体育祭。
その余韻が残る中、二回戦最初の試合が始まった。
誰もが息を呑む戦いである、轟と緑谷の対決だ。
開始の合図と同時に、轟は迷いのない動きで氷の一撃を放った。
地面を滑るように広がる氷塊に、緑谷は引くことなく立ち向かう。
右手の中指に力を込めて放った一撃は、氷塊を砕くには十分な威力があった。
耐久戦に持ち込む代償は緑谷の体に刻まれていく。
既に右手の五指は折れ、赤黒く腫れてしまっていた。
冷気が視界を奪う中、緑谷は負傷した指に再び力を込めて迎え撃った。
氷の塊が砕け散ると、彼は息を切らしながら叫んだ。
「皆、本気でやってる……勝って、目標に近付くために、一番になるために……! 全力でかかって来い!!」
その声は、観客席の隅々まで届くほどの力強さを持っていた。
緑谷の叫びは轟を激しく揺さぶり、息を飲み込んだ彼の顔にはこれまで見せなかった表情が浮かんでいる。
「……本気で……目標に、一番に」
そして、結もその言葉に心が激しく震えているのを感じていた。
緑谷の声が胸の奥深くに響き、心臓が強く音を立てる。
「君の! 力じゃないか!!」
心からの叫びが轟に向けられた瞬間、強い衝撃が走った。
諦めかけていた何かが揺さぶられる感覚は、鋭く深く心をえぐる。
もし彼と戦っていたら、その言葉は間違いなく結に向けられていたのだろう。
だが、なぜ緑谷はここまでして轟を動かそうとするのか、結にはその答えが分からなかった。
轟は一瞬だけ視線を落とし、左手をゆっくりと上げた。
絶対に使わないと誓っていたはずの炎の力が解放され、燃え盛る炎が広がり、冷えた空気が熱気に変わっていく。
轟の炎が膨れ上がり、緑谷が右手を掲げた瞬間、衝撃音が響き渡った。
爆風が競技場を飲み込み、炎と衝撃波が視界を覆い隠す。
煙が薄れていく中、目に飛び込んできたのは壁にもたれかかって気絶している緑谷の姿だった。
中央には、炎を纏ったまま立ち続ける轟の姿。
ミッドナイトが勝者を告げると、観客席から歓声が湧き上がる。
激しい戦いの末、三回戦進出は轟に決まった。