第14章 勝利の苦味
「敵だと相性最悪だねー」
「個性の使い方、似てるもんね」
五戦目はついに芦戸と結の対戦だ。
芦戸は軽くストレッチをしながら、腕を大きく伸ばして準備運動をしていた。
声も伸びやかで、楽しそうに笑う彼女の姿は、これから始まる戦いに一抹の不安も見せない。
一方、結は人目を避けるように少し視線を落としながら両手を組み合わせてぐっと前に伸ばした。
『第五試合目! あの角から何か出んの? ねえ、出んの? ヒーロー科、芦戸三奈! バーサス! 実は何でもできちゃう個性だったりィ!? 応援してんぜー! ヒーロー科、千歳結!』
マイクの大袈裟な紹介に、結は微かに頬を染めて困ったように頬をかく。
熱気に包まれた会場は次の戦いへの期待に沸き立っていた。
どちらの個性も触れた瞬間に勝負が決まる。
わずかなタイミングの遅れが致命的となる相性だった。
「まー、相性悪いからって手加減しないけど……ねっ!」
開始の合図が鳴り響くと、先に動いたのは芦戸だった。
彼女の個性である酸が空気を切るように放たれる。
酸は白い煙を上げ、じわじわと広がりながら平らな地面を削った。
間合いを詰める攻撃に、結は動じることなく躱していく。
「今なら……」
「よっと、残念! 触らせないよー!」
「避けられると思ってたけど、さすが……!」
結は一瞬の隙を狙って右手を伸ばしたが、芦戸は酸を靴底にまとわせ、スケートリンクを滑るかのようにして軽快に避けた。
彼女の器用な動きに観客席から歓声が上がり、会場は一段と盛り上がりを見せる。
『芦戸の攻撃が千歳に降りかかる! 両者一歩も引かない戦いと言いてぇとこだが、若干、芦戸が有利か!? 千歳はこのままだと場外負けになるぞー!?』
芦戸は攻撃を止めることなく、再び酸を放ちながら結を追い詰めていく。
その動きは速く、見て取れるほどのプレッシャーを与えていた。
場外を示す白線が近づき、じりじりと酸の迫る音が耳に届く。
結は目を細め、冷静に自分の足元と芦戸の動きを見定めた。
決着がつくと思われた瞬間、結の右手が地面に触れた。