第14章 勝利の苦味
『今、遊んでるっつったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんなら、もう見る意味ねぇから帰れ』
マイクよりも低く鋭い声がスピーカーを通じて響き渡った。
普段は冷静な相澤の声色に、滲む苛立ちが隠せていない。
騒ぎ立てる観客を制するように吐き捨てた言葉は、一瞬にして空気を凍らせた。
『本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねえんだろうが』
相澤の言う通り、爆豪はトーナメント戦まで勝ち上がってきた麗日を認め、何か企んでいることに警戒していた。
そして、彼らの行動は何よりも本気で挑んでいる証拠だった。
競技場では、麗日が震える足で再び立ち上がり、目の前の爆豪を見据えている。
爆破を受けた身体は既に限界を超えているが、両手の指先をぎこちなく合わせ、個性を発動させた。
二人の頭上に浮かんでいた大量の岩片が、重力を取り戻して降り注ぎ始める。
それは、捨て身の策だった。
これほどの物量なら隙を生むはずだと、麗日は確信していた。
その隙を逃さず、爆豪に触れて個性を発動することが最後の勝機だった。
だが、そんな期待はあっさりと裏切られてしまう。
耳をつんざく轟音が響き、岩の流星群が一瞬にして粉々に砕け散る。
爆豪の手から放たれた爆発の威力は、これまでの攻撃とは比べ物にならなかった。
破片の雨が周囲に転がる中、麗日は息を切らしながら立ち上がろうとする。
しかし、その身体は限界を迎えていた。
個性の許容重量はとうに超え、もはや動くことさえままならない。
ミッドナイトが彼女の様子を確認し、すぐさま勝敗を告げる。
一回戦最後の戦いを制したのは爆豪だ。
これで二回戦進出者が全員揃った。