第14章 勝利の苦味
黒影は一切の隙を与えず追撃を重ね、結を白線近くまで追い詰めていく。
間一髪で右手を地面についた結は、即座に個性を発動させた。
セメントの壁が音を立てて前後に立ち上がり、黒影の進路を遮断する。
「びっくりした……やっぱり、黒影にも触らせないようにしてる?」
「念の為にな。他の個性も含めて警戒している、触れられた瞬間に終いだからな」
常闇は長引かせるつもりはないのだろう。
指示を受けた黒影が壁を打ち砕き始め、セメントはみるみる崩れ落ちていく。
白線へ押し出されるのは時間の問題だと悟った結は、芦戸との戦いで用いた戦術を思い出し、地面から生成した小石を投げつけた。
だが、それらは黒影に触れずに弾かれ、意味を成さない。
「……そっか。でも、ごめんね。この戦いだけは、勝たなきゃいけないから」
小さな声は常闇への宣言であり、同時に自分自身への言い聞かせでもあった。
強く握りしめた右手は冷たい汗で湿り、目を閉じた脳裏には、とある男の姿が浮かぶ。
彼の個性を目にした回数は多くないが、今なら――この場でなら、使えるという確信があった。
頭上からセメントの破片が降り注ぎ、黒影が音を立てて横切る。
その隙を逃さず、結は壁を乗り越え、常闇へ向かって駆け出した。