第14章 勝利の苦味
七戦目、切島の相手はB組の鉄哲だ。
切島の個性は硬化、そして鉄哲の個性はスティール。
どちらも身体を硬化させる能力で「個性ダダかぶり対決」として注目を集めていた。
二人の拳がぶつかり合う度に重く鈍い音が響き、赤く染まった切島の拳と、傷のついた鉄哲の拳が戦いの激しさを物語っている。
互いに譲る気配のない暑苦しい殴り合いは続き、やがて、両者の拳が最後の一撃のように振り下ろされると、切島と鉄哲は同時にその場に倒れ込んだ。
引き分けと告げられた勝負の行方は回復後に腕相撲で決着をつけるとのこと。
担架で運ばれていく二人と入れ替えに、A組のとある二人が競技場に姿を現す。
「ここは麗日に勝ってもらいてぇけどな」
「正直、相手が悪いっていうか……」
上鳴と耳郎の視線の先では予選最後の戦い、八戦目が幕を開けようとしていた。
対戦するのは爆豪と麗日だ。
仲間たちが心配そうに見守る中、麗日は開始の合図と共に一瞬の迷いもなく突進した。
彼女の個性である無重力は結と同じく、触れることで発動する。
だが、爆豪の圧倒的な攻撃力と瞬発力を前にして、その接近は命がけだった。
「おい、それでもヒーロー志望か!? 実力差あるなら早く場外に放り出せよ!」
「女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!」
突然、観客席の一角から声が上がった。
それは、麗日の奮闘を見守る視線とは対照的に、もどかしさや苛立ちが混じったものだった。
見ていられないと訴えるブーイングは波紋のように広がっていく。
麗日は傷だらけの身体でもなお立ち続けていた。
その目にはまだ光が宿り、諦める様子は微塵も感じられない。
どうして、ここまで頑張る人を応援できないのだろう――結は胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えていた。
テンション高く実況を続けるはずのマイクが、言葉を選びながら小声で状況を伝える。
すると、何かがぶつかった音が響き、彼の声が離れていった。