第14章 勝利の苦味
「二人ともお疲れ!」
「芦戸、スケート選手みてぇだったぜ。惜しかったなー」
A組の待機所には、戦いを終えた芦戸と結を出迎える仲間たちの声があふれていた。
和やかな雰囲気に包まれた結は一息つくように切島の隣へと腰を下ろし、試合の進行を告げる放送に耳を傾ける。
「さっきの立ち回りからして、芦戸さんは個性でなく元から身体能力が高いんだ……それに多分、千歳さんの個性は間接的に触れた相手にも有効……そうなると、次の相手はこの対策なら……」
そんな中、紙を擦る乾いた音と独り言が聞こえた。
最前列の席では、緑谷が忙しなくペンを走らせ、 試合で得た情報をノートに書き足している。
その表紙は擦り切れ、色あせていて、開かれたページはぎっしりと文字や絵が書き込まれていた。
「えっと、緑谷くんはいつものやつ……?」
「一回戦目からずっとこんな感じ。実況と解説が聞けて二倍お得」
小声で尋ねた結に、前列に座る瀬呂は肩をすくめながらピースを見せた。
戦いの実況はマイクに、個性の解説は緑谷に任せて試合を観戦できる。
ノートを手にする姿は目立っているが、緑谷は気に留めることなく次のページを開いて情報を書き加えていく。