第14章 勝利の苦味
「ここは麗日に勝ってもらいてぇけどな」
「正直、相手が悪いっていうか……」
上鳴と耳郎の視線の先で、予選最後となる八戦目の幕が上がろうとしていた。
対戦相手は爆豪と麗日だ。
仲間たちが固唾を呑んで見守る中、麗日は開始の合図と同時に、一瞬の迷いもなく前へ踏み出した。
彼女の個性“無重力”は、結と同じく、触れることで発動する。
しかし、爆豪の圧倒的な攻撃力と瞬発力を前に、距離を詰める行為はほとんど賭けに等しかった。
「おい、それでもヒーロー志望か!? 実力差あるなら、早く場外に放り出せよ!」
「女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!」
観客席の一角から突然、声が上がった。
麗日の奮闘を見守る視線とは正反対の、苛立ちと焦れた感情をぶつけるような叫びだった。
見ていられないという非難の声は、段々と広がっていく。
それでも、麗日は倒れなかった。
傷だらけの身体で立ち続け、その瞳には、まだ光が宿っている。
諦めの色はどこにも見えない。
普段なら熱を帯びた実況を続けるマイクが、言葉を選ぶように声の調子を落とす。
直後、何かがぶつかる鈍い音がして、その声は遠ざかった。
『今、遊んでるっつったのプロか? 何年目だ?』
マイクよりも低く、鋭い声がスピーカー越しに響き渡る。
それは相澤の声だった。
冷静さの奥に、抑えきれない苛立ちが確かに滲んでいる。
『シラフで言ってんなら、もう見る意味ねぇから帰れ』
吐き捨てるような言葉が、騒がしかった会場の空気を一瞬で凍りつかせた。
ざわめきが静まり、観客席は重苦しい沈黙に包まれる。