第13章 並び立つには
「さっきからずっと見てっけど、千歳ってセメントス先生のファンだっけ?」
「……ん」
「すっげぇ生返事。なになに、なんか見えるとか?」
セメントスの個性であるセメントでコンクリートが形を変え、会場の中心に競技場を作り出していく。
控え室にいる緑谷を除いたA組の生徒たちは、専用の観客席で最終種目が始まるのを心待ちにしていた。
隣に座る瀬呂の問いに、結はつい曖昧な返事を返してしまったが、それでも視線は外せず、前のめりになるほど真剣にセメントスの個性を観察していた。
瀬呂は目を凝らして彼を見つめたが「なんも見えねー」と、その疑問が解消されることはなかった。
『心、技、体に知恵、知識! 総動員して駆け上がれ!』
種目の最後にふさわしい競技場が整うと、マイクの声が会場の外にまで響き渡っていく。
最終種目のルールは至ってシンプルだ。
相手を場外に押し出す、行動不能にする、あるいは相手に「まいった」と言わせれば勝利。
怪我はつきものだが、この場には頼れる優秀な医者が控えている。
万が一の時には彼女が最善を尽くすが、命に関わる攻撃だけは許されない。
ヒーローは敵を捕らえるために拳を振るうことを忘れてはならない。
一戦目はヒーロー科の緑谷出久と、普通科の心操人使の対戦。
期待度の高い最初の戦い。
心操に話しかけられた緑谷は開始早々、まるで操られているかのように完全に動きを止めてしまった。
心操の個性は洗脳。
彼の問いかけに答えた者は抗うすべもなく操られてしまう。
だが、彼の意思で個性をかけられるため、常に洗脳されることはない。
操られた緑谷の靴先が場外の白線に触れる直前、競技場に爆風が巻き起こる。
衝撃で洗脳の個性を解除した緑谷の左手、二本の指は赤黒く腫れ上がっていた。
掴み、殴り合いの末。
心操は場外に投げ飛ばされ、緑谷の二回戦進出が決まった。