第13章 並び立つには
一時間の昼休憩。
結は芦戸と葉隠の誘いを受けて、レクリエーションに参加する生徒たちを応援した。
ゆっくりとポンポンを振る表情は、先程と打って変わって柔らかなものだった。
一段落して時間に余裕があり、食堂で昼食をとり終えると、控え室までの道のりを歩く。
右手を開いて握る動作を止めることはなく、最終種目に向けて準備を続けていた。
「お、いたいた! Hey! 結ちゃん!」
突然、狭い廊下に声が響き渡る。
振り向いた先には、携帯端末を手に持ち、サングラス越しでもよくわかるほどの笑顔を浮かべるマイクの姿があった。
「遠くから見てても可愛かったけど、近くで見るともっとカワイー! 似合ってるぜェ!」
「ひざしさん、声が大き……」
「ほら、スマイル!」
「え」
マイクは携帯端末を構えると「相澤の土産に一枚! んで、記念に俺ともう一枚!」と、カシャリと二回音が続いた。
一枚目は結だけ、二枚目はマイクと一緒に収められている。
突然のことに、結は固まった表情を崩すことなく、頬は赤らんだままだった。
「そうそう、本戦出場すげーな、おめでと! 相澤も満足げだったし、例のアレ、叶うかもよ?」
「ほ、ほんと?」
無邪気な声で尋ねた結の頭を撫で回しながら、マイクは笑みを浮かべる。
数日前、相澤と交わした約束。
それは、出し惜しみなく扱える個性を使うことだった。
個性把握テスト時から懲りない相澤に、褒美がなければやる気も出ないと口出した山田。
褒美に悩む結だったが、山田の「相澤と買い物に行く」という提案に、瞬く間に瞳を輝かせた。
全力を出しているように見せることが重要だと、上位に入るために個性を駆使した。
だが、特訓を経て成長したのは結だけではなく、誰もが手加減せずに挑んでいる。
そのため、途中から右手を無傷のままで終えることは難しいと諦めていた。
「んじゃ、俺ァ飯食い行くわ! 一位目指してファイトだ、応援してるぜェ!」
明るい声が廊下に響く中、結は片手を振りながら食堂に向かっていくマイクの背中を見送った。
神経を研ぎ澄ます者、緊張を解きほぐそうとする者。
時はあっという間に過ぎ去り、その瞬間が訪れようとしていた。