第13章 並び立つには
結と麗日が呼び出されたのは、控え室からさほど遠くない部屋だった。
女子更衣室の看板を横目に扉を開けると、そこには姿を消していた女子たちが全員揃っていた。
部屋は控え室よりもやや狭い。
芦戸が暇そうに足をパタパタとぶらつかせ、その隣で葉隠が楽しみを抑えきれず、蛙吹の手を軽く握って振り回している。
何かが起こる期待感が室内に漂っていた。
八百万は丁寧に扉を閉めると女子全員を手招きし、静かに話し始めた。
その表情は明らかに困り果てたものだった。
「お、応援合戦? みんなでチアガールの服着るん……!?」
「ええ。そのような言伝を相澤先生から預かったと、上鳴さんと峰田さんが……何かお聞きしていませんか?」
「ヤオモモ、千歳の顔見て。これ、何も知らされてないやつだ」
耳郎は結を指しながら苦笑いを浮かべ、結は呆然と立ち尽くし、言葉を失っていた。
声を出そうと口を開くが、発せられたのは短い音ばかりで会話をするには難しかった。
「聞いてない……なんて……? チアガール……?」
「顔真っ青だよ千歳ー?」
「き、聞き間違いとかじゃなくて? 本当に……?」
「ウチも同じこと思ったけどさ……」
八百万の言葉に、結は今にも倒れてしまいそうなほどの衝撃を受けていた。
そんな結の肩を葉隠が抱き寄せ「みんなで着れば怖くない!」と明るい声で励ます。
葉隠は元気に、同じく乗り気でない耳郎の腕を引っ張り、負けじと会話を続けた。
結の心の中で、衣装を着ること自体には特に抵抗はなかった。
だが、引っかかっているのは、相澤が応援合戦の話を事前に伝えなかったことだった。
昨夜、彼との会話で体育祭が話題になった際に、種目の内容には一切触れられなかったが、全体の流れや昼休憩については正直に教えてくれていた。
応援合戦となればそれなりの覚悟が必要だと、相澤も察してくれるはずだ。
そんな相澤がクラス全員に話さず、峰田と上鳴にだけ伝言を預けた。
その違和感が結の中から消えることはなかった。