第12章 譲れない戦い
「ウエッ!? なんか、力が入んねえ……!」
「ごめんね、上鳴くん。勝つためには、これしかなかったから……!」
突然、電池が切れたかのように、上鳴は膝から崩れ落ちた。
すれ違いざま、結の右手がわずかに上鳴の腕に触れていたのだ。
手荒な方法だが、飯田は上鳴を引きずりながら走り出す。
追いすがる緑谷たちは一気に轟に追いつき、彼の首元に巻かれたハチマキを引き抜こうと力を振り絞った。
「とった! とったああ!!」
「まって、その数字――」
「万が一に備えてハチマキの位置は変えてますわ! 甘いですわ、緑谷さん!」
緑谷の手に握られていたのは、千万ポイントではなく、わずか七十ポイントのハチマキだった。
緑谷たちは未だ圏外にあり、決勝に進むためには少なくとも五百ポイントが必要だ。
現実が彼らの心に冷たい影を落とす中、残り十秒のカウントダウンが始まる。
両者ともに冷静さを欠き、焦りが渦巻いていた。
「緑谷を援護する! 周囲のポイントを奪取できるか、千歳!」
「やってみる……!」
結は黒影の姿を頭に描き、右手を氷壁に向けた。
黒影の力を真似するが、完全には再現できなかった。
それでも、小さく細い影が右手から伸び、周囲の騎手たちのハチマキに狙いを定める。
影は揺らめきながら、警戒の薄い騎手たちの頭上を素早く走り抜け、ハチマキを奪い取っていく。
競技の疲労と個性の使いすぎによって、右手は思うように動かなかったが、気を留める余裕はなかった。
結の心臓は高鳴り、周囲の音が遠くなる中で必死に自らの力を信じ続ける。
影は疾走し、希望を掴むための一縷の光となった。