第12章 譲れない戦い
「いきなりの襲来とはな……追われし者の宿命、選択しろ緑谷!」
「もちろん! 逃げの一手!」
フィールド全体が戦場と化し、緑谷たちのもとへB組の騎馬が真っ直ぐに突っ込んできた。
観客席にも迫力が伝わる中、緑谷は「まずは安全な場所を確保して!」と声を上げる。
その瞬間、結は事前に拾っていた小さな石を指で弾いて飛ばした。
石は空中を滑るように飛び、正確に敵の騎馬の先頭に当たった。
直後、少年の動きが止まる。
彼の手は地面に触れる寸前で硬直していた。
「か、体が動かねぇ……!?」
「作戦失敗だ! 追え!」
二組の騎馬を置き去りにし、四人は空へと浮き上がる。
麗日の個性によって逃げる手立てを得て、会場の熱気から一時的に離れることができた。
途中、耳郎響香が個性であるプラグ状の耳を伸ばして足止めを仕掛けるが、常闇の黒影が瞬時に反応し、攻撃を軽々と弾き返した。
その動きは、静かな闇が急に襲いかかるかのように自然だった。
「僕らに足りてなかった防御力、それを補って余りある常闇くんの全方位中距離防御! すごいよ、かっこいい!」
「選んだのはお前だ」
緑谷の目が輝く中、冷静に応じた常闇の声には自信が滲んでいた。
背後に浮かぶ黒影も、どこか照れ臭そうに満足げな顔を見せている。
高く舞い上がる彼らの視界には混乱した戦場が広がり、次なる戦略を考える余裕も与えていた。
「千歳さんの個性で離れた相手の動きを止められるし、麗日さんの個性で空中に逃げれば地上より安全に時間を稼げる! すごいや、みんな!」
「へへ、照れるやん……」
「相変わらず、褒め上手だね」
常闇の黒影に死角の見張りを任せ、麗日は周囲の安全を確認した。
空中に浮かんでいる間、耳郎以外、誰も追ってこなかった。
しばらくして、麗日は「着地するよー!」と指を合わせて個性を解いた。