第12章 譲れない戦い
「千歳さんって浮かせたり、止めたりする個性をよく使ってるけど、苦手な個性もあったりするの?」
「他の個性はすぐキャパ超えちゃうから何度も使えないけど、この二つは小さい頃から見ていたから扱いやすくて」
仲良く話す二人とは対照的に、緑谷は結が自ら話し始めたことに戸惑いを感じていた。
彼自身も長い間、個性を隠して過ごしている。
そして、普段から自分のことを語らない結。
これまでにも話す機会は幾度もあった。
「……私も、自分の個性のことよく分からないから、話しずらくて。そのうち、仲のいい人には話そうって思ってた」
緑谷の考えを読み取ったのか、結は肩をすくめるようにして彼を見つめた。
どこか儚さが漂いながらも、確固たる意思が瞳に宿っている。
緑谷と麗日は顔を見合わせ、嬉しさがじわりと心に広がっていくのを感じた。
結の言葉は二人の心に深く響き、自然と笑みを交わすきっかけとなった。
「よーしっ! 頑張ろうね、二人とも!」
「もちろんだよ!」
「うん、みんなで勝ち上がろう」
会場の騒々しさが遠くに感じる中、三人はそれぞれの思いを胸に秘めながら、これからの戦いに向けて準備を整えていた。
周囲からの視線やプレッシャーを感じつつも、三人の間には柔らかく温かな空気が流れている。
互いの信頼が生み出す、特別な雰囲気だった。
だが、まだ一枠が残っている。
緑谷は心の中で、自分たちの足りない力を補える存在を考え始めた。
誰がこのチームに加わるべきなのか、考えが次第に具体的になっていく。
緑谷は視線を移すと、一人の少年を見つけて大きく声をかけた。