第12章 譲れない戦い
「もしかして、飯田くんの個性で逃げる作戦だった?」
「みんな、僕のポイントを狙うだろうから……飯田くんを先頭に、麗日さんの個性と合わせて、逃げ続けるつもりだったんだけど……」
「そっか。じゃあ、それに近い形でやってみる?」
「えっ、どういう――」
緑谷が首を傾げた瞬間、結は掌に小さな石を乗せた。
石はふわりと浮かび、くるくると回転を始める。
次第に、漂う冷気が空気を震わせ、石はひと息のうちに氷漬けになった。
緑谷も麗日もただ見上げるしかなかった。
目の前で起きていることを理解するには数秒必要だった。
「こ、これって……轟くんの個性じゃ……!?」
緑谷の視線は凍りついた石に吸い寄せられた。
驚きと期待が混ざった瞳が、その氷の欠片を捉えて離さない。
「私の個性は“習得”っていって、見たことのある個性を一時的に使えるの。さっき飯田くんの動きも見てたから、少しなら使えると思うよ」
「テストの時に何でもできてたのって、そういうことだったん……!」
「習得か……コピーとは違う、珍しい個性だ……! 見ることでその個性を使えるようになるのか……使える時間は、見た時間と関係して――」
緑谷は麗日の興奮に引きずられるように分析モードに入った。
いつもの癖で鞄を探り、ノートを取り出そうとする。
だが、荷物がないことに気づき、気恥ずかしそうに動きを止めた。
「よーしっ! 頑張ろうね、二人とも!」
「みんなで勝ち上がろうね」
「うん! もちろんだよ……!」
会場の喧騒は遠のき、それぞれ胸の内に抱く決意と緊張が溶け合っていく。
周囲の視線やプレッシャーはあったが、互いを信じる気持ちが強さを生み出していた。
まだ一枠空いている。
緑谷は心の中で、欠けている役割を冷静に思い描く。
足りない力を補える存在。
思考が形をむすぶと、一人の少年を見つけて声を張った。