第12章 譲れない戦い
「もしかして、飯田くんの個性で逃げる作戦だった?」
「うん。みんな、僕のポイントを狙ってくるだろうから、飯田くんを先頭に麗日さんの個性と合わせて、逃げ回る作戦を考えてたんだけど……」
「そっか。じゃあ、それに近いこと試してみる?」
「試して――」
緑谷が疑問の色を浮かべた瞬間、結は小さな石を右手に乗せた。
どこから取り出したのかも分からないまま浮かび上がり、くるくると空中を回転し始める。
その石は次第に冷気を放ち、空中で凍りついた。
まるで、凍った星が手のひらで踊るように。
緑谷も麗日も、目の前で繰り広げられる光景に言葉を失ったまま石を見つめていた。
何が起きたのかを理解するには時間がかかった。
「こ、これって轟くんの個性じゃ……!?」
緑谷の声が空気を裂き、視線は凍りついた石に釘付けになっている。
彼の目は驚きと期待に輝いていた。
「私の個性は"習得"っていう、見たことのある個性を使えるの。ただ、ずっとは使えなくて……飯田くんの個性はさっき見たから、何回か使えると思うよ」
「テストの時に何でもできてたのって、そういうことだったん……! 強いわけだ……!」
麗日は驚きを隠せない様子で、その場でぴょんと跳ねた。
キラキラと目を輝かせ、期待感が溢れている。
結は少しだけ恥ずかしそうに微笑み返した。
「習得……コピーとは違う珍しい個性だ……! 見ることでその個性を使えるようになるのか……使える時間は見た時間と関係してるのかな……今すぐまとめて――」
緑谷も麗日の興奮に同調し、冷静に分析を始めた。
思考は一瞬で加速し、いつもの癖でペンとノートを取り出そうと鞄を探す。
しかし、その動作は急に止まった。
荷物がないことに気づいたのだ。