• テキストサイズ

お友達から始めよう【ヒロアカ】

第2章 本気の裏側



「お、戻ってきた! 先生にいきなり呼ばれるなんて、何かあったのか?」
「少しだけ注意されちゃった」
「注意……?」
「千歳くん、君の順番はここだ! スムーズに事が進むように列を乱さず並んでくれたまえ!」


 切島との会話は自然に途切れ、結は飯田の勢いに押されながら彼が指示した場所に移動する。

 開始の合図を待っていると、結はふと教室での視線と同じものを感じた。
 ゆっくりと目線を隣に向けると、競走のペアになるであろう人物が目を細めて結を見つめていた。


「あっ、悪い! 隣で走るからには負けたくねえなって思ってさ。俺、瀬呂! 千歳だよな、これからよろしく!」


 互いの視線が交錯した後、瀬呂範太は躊躇しながらも慌てて自己紹介を始めた。
 焦りが滲むその声は、言葉が滑らかに出るように急いで紡いでいた。


「よ、よろしくね。瀬呂くん」


 自分の名字が知れ渡っていることには気にせず、結は差し出しかけた右手を気恥ずかしそうに引っ込めた。
 誰もが切島のように親しげに接してくれるわけではないようだ。

 微妙な空気が二人の間に流れ、数秒の沈黙が訪れる。
 結は視線を逸らして場を凌ごうとするが、瀬呂は会話の糸口を見つけようと必死で言葉を探していた。
 その頬に浮かぶ赤みが、彼の内心の焦りを物語っている。


「なあ、千歳ってどんな個性持ってんだ? 見た感じ、変わった所はないっぽいけど」
「私は……簡単に言うと、物を動かしたり止めたりする個性だよ。瀬呂くんの個性は、テープ?」


 瀬呂の両肘はセロハンテープのロールのように丸く変形していた。
 結は彼の片肘を指で示しながら尋ねると、瀬呂は得意げに笑みを浮かべる。


「こーやって自由に操れんの」


 瀬呂は肘を軽く動かし、白いテープを出して見せた。
 それは普通のものよりも強い粘着力と柔軟性があり、頑丈で簡単には破れない。
 テープは風に揺れながら、音もなく瀬呂の肘に巻き戻されていく。


/ 133ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp