第2章 本気の裏側
「ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
低く静かな声だった。
鋭さを帯びた一言に、弾んでいた空気が一瞬で凍りつく。
笑っていた生徒たちの顔から、みるみる色が抜けていった。
「……よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「はあああ!?!?」
「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
動揺の声が一斉に上がり、ざわめきに包まれた。
波のように広がる空気の中で、相澤はどこか楽しげに前髪をかき上げる。
わずかに口元が緩み、遊び心がのぞいている。
冗談には思えないその仕草に、結はぎくりとした。
「自然災害、大事故、身勝手な敵たち、いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎だな」
彼の口調に抑揚はなく、言葉のひとつひとつが刃のようだった。
無邪気な期待を抱いていた生徒たちの目の前に、現実の重さを突きつけられる。
「これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。“Plus Ultra”さ。全力で乗り越えて来い」
相澤は指を軽く折り、口元だけで笑った。
その薄い笑みに煽られ、困惑していた生徒たちの瞳に少しずつ闘志が宿っていく。
最初の種目は50メートル走。
そう告げられると、各々が指定の位置へ向かった。
強まった風がグラウンドの砂をさらりと巻き上げる。
「千歳、ちょっと来い」
切島の後ろを追おうとした足が止まる。
振り返ると相澤が手招きをしていた。
結の動きを見て、切島は「先に行ってるぜ!」と声をかけ、軽やかに駆けていく。
背中からは、これから始まる時間への期待が溢れていた。
それを結はどこか羨ましく見送った。