第2章 本気の裏側
「学校側も俺も、お前の個性についてまだ十分に把握しきれていない。入試時に記録するつもりでいたが、本気で挑まなかっただろ」
相澤の指摘は的確で、言い訳の余地もなく図星だった。
結は口を結び、視線を逸らす。
その様子に相澤は深く息を吐き「しっかり打ち込めよ」と、さらに低い声で追い討ちをかけた。
「……出来る限り努力、します」
「いや、出来る限りじゃなく」
「みんなを待たせているので、もう行きますね」
「待て、まだ話は――」
結は相澤の言葉を遮り、作り笑顔を見せて素早く集合場所へと向かう。
相澤が伸ばした手は空回りし、結の背中を見送ることしかできなかった。
放った手は心残りを抱えたまま、虚空を掴んだ。
一方で、結の心には相澤との秘密が重くのしかかっていた。
普段は小さな違和感として心の片隅に潜んでいたが、今ははっきりとした形で存在感を示している。
胸の奥から湧き上がる落ち着かない感情は、抑えるほどに強まっていく。
「……難しいなぁ」
合格通知を受け取った日から、相澤に「学校では他人のフリをしろよ」と繰り返し言われていた。
たとえ雄英の関係者でも、二人が同居していることを知る者はほとんどいない。
かつて他人だった二人は同居人として関係を築いた。
だが、再び他人の関係に戻すのは難しい。
さらに、同居人から教師と生徒という公の関係に変わり、複雑な距離感を生んでいた。
答えにたどり着く手がかりが見つからない。
秘密を隠し通す重要性が結の心に深く根を張っていた。
そして「全力」という言葉にわだかまりを抱きながら、結は表面上の平静を装って歩き始めた。