第11章 備えあれば
「千歳くん、ここはゴール付近で危険だ。壁際まで歩けそうか?」
「うん、歩ける……ありがとう……」
一足先にゴールをした飯田が心配そうに問いかけた。
結は疲労にまみれた体を感じながら、かろうじて頷く。
どうにか歩こうとする様子に、飯田は結を支えようと近づいた。
「君もすごい個性だな。複製とは違ったもののようだが、俺に早さで追いつくとは……まだまだ、鍛錬が必要ということか」
「飯田くんこそ、後を追ってくるなんて考えもしなかった……詰めが甘いって言われちゃうなぁ……」
結は壁に寄りかかりながら荒い息を整えた。
右手の指先は痺れはないが、動きはぎこちなく、腕全体に重さを感じていた。
初めの一種目からこれほどまでに力を使う予定ではなく、自己管理の甘さを痛感していた。
「……でも、まだ使える。あと二戦、気を抜かないようにしないと」
悔しさを飲み込むように、右手を強く握り締める。
深呼吸をしながら目を閉じて心を整えると、最後の一人がゴールに到着するのを静かに待った。
「ようやく終了ね。それじゃあ、結果をご覧なさい!」
ミッドナイトが興奮気味に宣言し、電光掲示板を指差すと、予選通過者の上位四十二名が表示される。
結の順位は飯田に続いて五位だった。
走り終えた生徒たちは全員、疲労の色を隠せていない。
一位には予想外の動きを見せた緑谷、二位は爆豪、三位は僅差で轟。
予選通過者のリストにはA組全員の名前がしっかりと表示されていた。
「さーて第二種目よ! 私はもう知ってるけど何かしら!? 言ってるそばから――コレよ!」
掲示板に映し出されたのは「騎馬戦」の文字。
上位通過者ほど下位から狙われるという下克上のサバイバルが、いよいよ始まろうとしていた。