第11章 備えあれば
『ここで先頭が変わったー! 喜べマスメディア! お前ら好みの展開だああ!』
前方では爆豪と轟が火花を散らし、競り合っている。
第二関門の綱渡りを軽やかに抜け、結は最後の障害である地雷原へ踏み込んだ。
地面には金属の塊が無数に埋め込まれ、一歩ごとに緊張が足元へ張りつく。
爆発そのものは致命的ではないが、耳を裂く音と煙の勢いは十分に圧を持っていた。
足元の石を拾い、手のひらを滑らせるように地面へ落とす。
沈黙を確かめ、さらに両手へ石を集めて駆け出す。
背後で次々と爆音が弾け、地が震えたそのとき、頭上を覆う影が空を横切った。
巨大仮想敵の装甲を踏み台にし、爆風をまとって滑空する緑谷の姿が映る。
風そのものが意思を持って戦場を駆けるような、ただならぬ勢いだった。
『A組緑谷、爆風で猛追――っつーか、先頭を抜いたああー!』
緑谷は爆豪と轟を置き去りにし、装甲を叩いて地雷を誘爆させながら進路を拓いていく。
その姿に、結はほんの一瞬だけ見入っていた。
深く息を吸い、意識を前へ戻す。
差はまだ縮められる。
前方には、すでにB組の背中が射程に入っていた。
「千歳くん! 君の個性、有難く利用させてもらう!」
「えっ……!?」
『おおっとォ!? 飯田が千歳を抜いたァー! 一位の次は四位争いか!? あちぃなA組!』
背後から声が飛び、爽やかな笑みを浮かべた飯田が結を追い抜いた。
結の“停止”の個性は、複数対象を解除するには時間を要し、同時保持にも限界がある。
爆ぜる役割を失った地雷はもはや障害ではなく、一本の安全な道へと変わっていた。
飯田は結が通った道を読み、利用したのだ。
結は悔しげに唇を噛み、前方を駆ける飯田の背を見送る。
もう追いつけないことはわかっていた。
そう認めざるを得ないほど、二人の間に差が生まれていた。