第11章 備えあれば
『大胆な妨害だァー! 三、四体は吹っ飛んだか!? イレイザー、見たか今の!?』
『見た。実況しろよ』
スピーカー越しの温度差あるやり取りを聞き流しながら、結は走り出す。
だが、不意に背中に重みがのしかかり、思わず膝をついた。
振り返るより先に、聞き覚えのある声が背後で裏返った。
「千歳! 頼む、オイラも連れてってくれ!」
「み、峰田くん?」
土と汗と涙でぐしゃぐしゃになった峰田が、必死の形相でしがみついていた。
小柄な体は打撲だらけで、よほど追い詰められたのだと伝わる。
「オイラの個性じゃ無理だ! 邪魔しないからさぁ!」
「わ、わかったから、ちょっと離れて……」
「離れたら置いていくだろ!? 見捨てないでくれよ! 頼むよぉ!」
背に絡みつく腕は、恐怖にすがりつくように固い。
結は困惑のまましばし黙り、そっと押し返そうとするが、峰田は離れなかった。
「できれば、見捨てたくないけど……本音は?」
「ほ、本音? へへ……そりゃあ、女子に抱きついてゴールできるなら、一石二鳥――」
その軽口が言い終わる前に、結の右手が峰田の足に触れた。
彼の全身から力が抜け、顔面から地面へと倒れ込む。
痛ましい悲鳴が上がったが、結は残された時間を取り返すように走り出した。