第11章 備えあれば
「入試ん時の、ゼロポイント敵じゃねえか!」
「ヒーロー科、あんなんと戦ったの!?」
轟の前に機械の巨大な腕が振り下ろされる。
彼は躊躇なく身を沈めると、右手で地を払った。
寒気を帯びた鋭い音が走り、地を覆う氷が敵を一瞬で包み、動きを奪う。
「……もっとすげえの用意してもらいてえもんだな。クソ親父が見てるんだから」
氷柱と化した仮想敵が音を立てて横倒しになる。
巨大な躯体が滑り込み、生徒たちの進路をさらに狭めていった。
『こいつぁシヴィー! 一抜けだ!』
マイクの叫びが轟の突破を讃えるように響いた。
彼の背を追って、爆豪、瀬呂、常闇が一気に加速する。
それぞれが迷いなくゴールだけを見据えていた。
そんな中、結は足元に転がる機械の破片を拾い上げた。
狙いを定めて前方の仮想敵へ放つと、小さく金属が弾け、敵機はその場で沈黙した。
入試なら得点だが、今は違う。
ただ前へ出るための一手にすぎなかった。
『A組、千歳がロボを止めたー! さァ、次は何をすんのか見物だぜェ!? 轟みたいに妨害に使うかァ!?』
「ゆ、誘動してる……」
背を押すというより、むしろ転がすような雑な実況が耳に届く。
結は息を整えると、停止した仮想敵の足元に右手を置いた。
以前の自分なら支えきれなかった重量だが、積み重ねた鍛錬が確かに応えていた。
浮き上がった機体を大きく傾け、周囲を巻き込みながら押し潰す。
轟の氷とは対照的な、力任せだが迷いのない突破。
破片が風にさらわれ、鋭い音を残して宙を舞った。