第11章 備えあれば
『スタート!』
プレゼント・マイクの鋭い声を合図に、生徒たちが一斉に地を蹴る。
だが、序盤は道幅が狭く、人数の多さに押されて自由が利かない。
人の流れに飲まれながら、結はどうにか身体のバランスを保っていた。
そのとき、視界の前方で紅白の髪が揺れた。
轟は嵐の兆しを孕んだような静けさをまとい、前線に立っていた。
後方を確認することなく、彼が放った氷が一気に駆け、地面を白く飲み込んでいく。
「ってぇー! なんだ凍った! 動けん!」
「寒ぃ!」
「危な……!」
結は咄嗟に右手へ力を込め、反動で身体を跳ね上げた。
凍結は足元まで迫っていたが、ぎりぎりのところで躱す。
しかし、そんな回避ができた者は数えるほどしかいない。
判断の遅れた生徒たちの足は、次々と氷に囚われていった。
「そう上手くいかせねえよ、半分野郎!!」
「クラス連中は当然として、思ったより避けられたな……」
爆豪が爆破で氷を跳ね飛ばしながら怒鳴り、A組の数名が轟の背を追う。
氷の足枷に囚われることなく個性を駆使し、一気に加速した。
「轟のウラのウラをかいてやったぜ! ざまあねえってんだ! くらえ、オイラの必殺――」
「ターゲット大量」
息が白くゆらめく中、峰田が勢い余って転がり、その向こうで巨大な影が姿を現した。
進路を塞ぐように立ち上がったのは、入試の記憶を呼び覚ます、仮想敵だ。
圧迫感のある機械音が響き、アナウンスが第一の障害であることを告げる。
生徒たちは瞬く間に戦闘態勢へと切り替えた。