第11章 備えあれば
頑丈な門が重々しく開かれ、開始を告げる信号が一つ赤く点灯した。
生徒たちがスタートラインに位置を取る中、結は深呼吸をしながら目を閉じる。
数日前の相澤と山田との会話が鮮明に蘇る。彼との約束を思い出し「見ててね、消太さん」と心の奥で決意を新たにした。
両手を握り、開いて違和感がないことを確認する。
“約束”を果たすために今日まで力を温存してきたのだ。
緊張と期待が入り混じり、時間がゆっくりと流れているかのような感覚に包まれる。
三つ目の信号が灯ると、全ての光が緑色に染まった。
『スタート!!』
マイクの声がスタジアム全体に轟くと同時に、生徒たちは一斉に動き出した。
道幅に対して参加者が多すぎるため、混雑するスタート地点では自由に動けず、押し合いながらただ流されるように進んでいく。
そんな中、結の目に紅白の髪を揺らす轟が飛び込んだ。
周囲に冷気を漂わせる彼は、何かが起こることを予告しているかのようだった。
「危な……!」
轟が放った冷気が瞬時に地面を凍らせ、氷が広がっていく。
結は咄嗟に右手に力を込め、自分の体を浮かせて足元の氷を避けた。
ぎりぎりで回避できたものの、他の生徒たちの多くは手や足を凍らせてしまい、進行を阻まれていた。
難なく乗り越えたA組たちは、轟を追いかけようと加速する。
視界の端には余裕を見せて振り返る轟と、障害にぶつかり転がる峰田の姿が映った。
轟の冷徹さと峰田の不格好な姿は、あまりに対照的だった。
「ターゲット大量!」
無数に立ちはだかるのは、入試試験以来の巨大な仮想敵だ。
道を埋め尽くすように現れ、次の関門を告げる合図でもあった。
スピーカーから流れる声が最初の障害であることを伝え、生徒たちはすぐに戦闘態勢を取る。
この競技は障害物競走だ。
他人に道を譲る余裕も、待つ時間もない。
生徒たちは自らの個性と知恵を駆使し、立ちはだかる巨大な敵に挑んでいく。