第11章 備えあれば
アナウンス越しに、プレゼント・マイクの実況が場を盛り上げる。
A組の生徒たちは列を整え、入場口へと歩を進めていた。
会場の中心に近づくにつれ、観客席から湧き上がる拍手が押し寄せる。
数万人の熱気が波のように身体を揺らし、背中を押した。
『敵の襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星! ヒーロー科! 一年A組ィ!!』
実況が響いた瞬間、場内の歓声はさらに膨れ上がった。
拍手の渦の中で、ひとりひとりが無数の目に照らされている事実を思い知らされる。
ヒーローとは常に見られる存在だ。
評価され、時に希望として期待を背負う。
その現実が、視線の熱とともに全身へ迫った。
「しっかし、すげぇ人の数だな、雄英体育祭……!」
「一大イベントだもんね」
「なんか緊張すんな……!?」
「しねえよ。ただただアガるわ」
切島の見上げる先には、隙間なく埋まった観客席が果てまで続いている。
だが、爆豪だけは圧倒されるどころか、いつも以上に不敵な笑みを浮かべていた。
やがてB組、普通科、サポート科、経営科の生徒たちも順に入場する。
拍手は途切れることなく続き、会場の温度が少しずつ上昇していった。
「選手宣誓!」
全クラスが揃うと同時に、十八禁ヒーロー・ミッドナイトの声が響いた。
朝礼台の上で名を呼ばれたのは、ヒーロー科入試一位の爆豪勝己だった。
期待と好奇が混ざった視線が一身に注がれる。
ポケットに手を突っ込んだまま、爆豪はクラスメイトの間を抜け、迷いのない足取りで壇上へ向かった。
「せんせー」
気怠げな一言に飾り気はない。
だが、その簡潔さこそが誰よりも重みを含んでいた。