第11章 備えあれば
「僕も、本気で獲りに行く」
緑谷の眼差しもまた鋭く、揺るぎがない。
切島が慌てて二人の間に割って入り、場を和ませようとすると、轟の口からさらに名前が飛んだ。
「千歳。悪いが、お前もだ」
「……え、私?」
思いもよらない指名だった。
轟の視線が向いた途端、突然のことに胸の奥がぎゅっと掴まれる。
上鳴が「クラス最強決定戦!?」と楽しげに声を上げるが、その軽さは遠く聞こえた。
「遠慮しとく……そういうの、苦手だし」
「轟、直前にやめろって! 二人とも困ってるだろ……!」
「こっちは中途半端な気持ちで挑むわけじゃねえんだ」
切島の制止を轟は押しのけた。
熱を秘めた言葉とは裏腹に、表情は冷静そのものだ。
その視線の奥には、焦りの色が滲んでいるのを感じた。
「お前の個性が強ぇのは知ってる。それを超えなきゃ、上に行けねぇんだ。手を抜く気はねぇ」
体育祭は始まる前から、すでに火蓋が切られていた。
氷水のように冷たく澄んだ一言が胸を刺し、息が詰まる。
だが、痛みが不思議と身体の芯を熱くした。
結が椅子から立ち上がると同時に、体育祭開始を告げるアナウンスが建物中に響き渡る。
いよいよ幕が上がろうとしていた。