第11章 備えあれば
雄英体育祭、当日の朝。
校門前には、かつて報道陣が押し寄せた時の騒ぎを上回る人波が広がっていた。
張り詰めた空気の下、ざわめきが途切れることはなく、警備に立つプロヒーローたちの視線が鋭く往来を監視している。
列は視界の果てまで続き、一般客も報道関係者も肩を寄せ合いながら入場を待っていた。
今日がただの学園行事ではなく、全国が固唾を呑んで見守る一大イベントであることを、群衆が物語っていた。
控え室では、A組の生徒たちがそれぞれのやり方で緊張と向き合っていた。
誰かが黙々とストレッチを始めれば、別の誰かは取り留めのない冗談を口にして空気を和ませていた。
授業で流した汗、個性を磨いた訓練、判断を誤れば命取りとなる局面を想定した基礎学の反復。
積み重ねてきた日々が今試される。
「皆、準備は出来てるか!? もうじき入場だ!」
飯田の声に、胸の奥で鼓動がひときわ強く跳ねる。
高まる熱気を肌で感じながら、待ち構えていた生徒たちの空気がふいに凍りついた。
「緑谷。お前には勝つぞ」
振り返ると、轟が緑谷を真っ直ぐに見据えていた。
爆豪のような衝突ではなく、表情を大きく動かさない彼が放つ確かな敵意。
その目に宿る覚悟が、室内の温度をひと息で変えた。