第10章 気になるあの子
六限目の終わりを告げるチャイムが鳴り、校内にわずかな解放感が広がった。
ホームルームはあっさりと締めくくられ、教室には椅子を引く音やノートを閉じる音が聞こえていた。
結は机に広げていたノートを閉じてリュックにしまい、残していたもう一冊を手に取って席を立った。
「轟くん、ノート見せてくれてありがとう」
「早かったな。もういいのか?」
向かった先には轟の姿があった。
保健室から戻った時、彼が無言で差し出した数学のノートを、結は空き時間に黙々と写していた。
ノートを轟へ返すと、教室の出入り口から爆ぜるような怒声が響いた。
「エラく調子づいちゃってんな、オイ!!」
爆豪が誰かに噛みついたらしく、扉の前で怒鳴り散らしていた。
A組が襲撃に遭ったという話題で廊下はすでに人で溢れ、熱気とざわめきが渦巻いていた。
その圧に、結は思わず肩をすくめる。
押し寄せる喧噪の波は、ただ過ぎるのを待つしかなかった。
「人混み、嫌いなのか」
「……うん」
「前も嫌がってたよな」
「前……?」
轟は騒がしい廊下を他人事のように眺めている。
ざらついた空気に飲まれることなく、変わらない静けさを保っていた。