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お友達から始めよう【ヒロアカ】

第10章 気になるあの子



「リカバリーガールに叩き起こされてな。身体中、痛くて仕方ない」
「そ、それは、お気の毒に……」


 どこか棘を含んだ言葉に、結の肩がすくんだ。
 相澤はベッドの正面に立ったまま、じっと動かない。
 結は目を合わせられずに視線を泳がせた。
 彼の包帯越しの眼差しは鋭く、見透かされるようで落ち着かない。
 沈黙が続き、空気の重さが喉元までのしかかった。


「……だから言っただろ」


 そんな中、相澤が長く息を吐いた。
 叱責よりも、どこか諦めたような声だった。
 ゆっくりとしゃがみ込み、結の目線に合わせる。
 低く、柔らかな声が響いた。


「帰りは俺を待たなくていい。飯の準備も後でいいから、寝てろ」
「で、でも、私」
「結」


 名前を呼ばれると、結の胸に張り詰めていた小さな意地が音もなく解けた。
 穏やかな感覚が心の奥深くに染み込み、気づけば小さく頷いていた。


「……ごめんなさい」
「責めてるわけじゃないよ」
「あ、あと……消太さんに、聞きたいことがあって」
「どうした?」


 不安げで、迷いながら口にした言葉がわずかに震えている。
 結は口元を膝で隠すようにしているが、その頬には薄く赤みが差していた。


「私って寝相悪い? 今まで気にしたことなかったし、一人で寝た方がいいかなって……」
「……急にどうした? 婆さんに言われたのか?」


 相澤は扉に向かう足を止め、考え込むように天井を見上げた。
 その表情は見えなかったが、彼の心の中で何かを巡らせているのが感じ取れた。
 やがて再び背を向けると、淡々とした声で話し始める。


「いつも通りでいい」


 言葉の意味を完全に理解するには時間がかかった。
 相澤は無言で部屋を出て行き、入れ違いにセメントスが戻ってくる。
 相澤の姿が完全に見えなくなった後、セメントスは「戻るまでに睡眠をとるように」と声をかけた。
 結は素直に布団へと身を戻し、今度こそ深く目を閉じた。
 意識が落ちる頃、ようやく相澤の言葉の意味を理解していた。


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