第10章 気になるあの子
「腕、怪我しなかったか?」
「うん。ありがとう、心配してくれて」
轟の顔に浮かんだ安堵の表情は、心からの安心感を示していた。
彼が本当に気にかけてくれていたことを結は改めて実感した。
廊下の喧騒は次第に静かになり、騒音が徐々に遠くなっていった。
気づけばクラスの半数以上が既に教室を去っており、混雑は次第に解消されていた。
「……そろそろ帰りてぇな」
「もう少し、人が減ってくれたらいいんだけど」
「これ減るまで結構時間かかるぞ」
轟は椅子を机の下に戻しながら、無言で手を差し出した。
その手の動きから、握手を求めるわけではないことの予想がついた結はその手に触れるのをためらっていた。
「ああ、手よりこっちの方がいいか」
固まる結に対して、轟が示したのは自分の背負っているリュックサックだった。
掴むように促されるその仕草に結は自然とその手を伸ばし、リュックサックの端をしっかりと握った。
轟は人混みの中を先頭として、迷うことなく進んでいく。
結は彼の真後ろを歩き、群衆に流されることも押しつぶされることもなくついて行った。
テスト時から抱いていた轟への印象は、今ではすっかり消えかけていた。
彼のリュックサックを頼りに歩くうちに、結は思っていた以上に信頼のおける存在であることを実感し始めていた。