第10章 気になるあの子
「君はまだ寝てて。授業が終わる頃に起こしてあげるから」
「いえ……寝相を晒せないので……」
「大丈夫、気にしないよ。それと、君に用事がある人が来るんだ」
「私に……?」
セメントスは結が動き出すのを止めるように、大きな手を伸ばした。
ゆっくりと椅子に腰を下ろし、無理に促すことなく穏やかな声で話し続ける。
「時間がかかると思うから、座りながら待とう」
リカバリーガールが戻ってくるのだろうか、それとも他の教師が来るのか。
頭の中で考えを巡らせ、担任が来るのが妥当かと冷や汗が流れた。
しばらくして、ふとセメントスが立ち上がり、音を立てた扉の前に立った。
結も視線を向け、息を呑む。
誰かがすぐそこにいる気配を感じていた。
「良かった。無事に来てくれて」
「しょ……相澤、先生」
予想通り、扉の向こうに立っていたのは相澤だった。
結の胸に広がっていた安堵感は、彼の纏う冷たい空気に触れると一気に消え去った。
相澤の視線一つで、部屋の温度が急に下がるような気がした。
結の頬から血の気が引き、無意識にカーテンの陰に隠れる。
「席外しますね」
「悪いな」
「え、待ってくださ――」
「ごゆっくり」
セメントスは空気を読んだのか読まなかったのか、柔らかな笑みを残して部屋を出て行った。
ドアが閉まる音がやけに耳に響いた。