第10章 気になるあの子
「帰りは俺を待たなくていい。飯の準備も後でいいから寝てろ」
「で、でも、私」
「結」
相澤の名前を呼ぶ一言が心の奥底で揺さぶり、ささやかな抵抗を次第に折れさせていった。
結は最終的に、六限目の前には教室に戻れるという約束を取り付けた。
小さく謝る結に対して、相澤は「別に責めてるわけじゃないよ」と穏やかな声で応じ、ゆっくりと立ち上がった。
「あ、あの、消太さん。一つ聞きたいことがあって」
「どうした?」
結はおどおどとした様子で声をかける。
言葉を選びながら、口元は膝で隠すようにしている。
隠しきれていない頬は距離があっても一目でわかるほどに薄らと赤く染まっていた。
「……私って寝相悪い? 邪魔してる……? 今まで気にしたこと無かったから、その、一人で寝た方がいいかなって……」
「それ、婆さんに言われたのか?」
相澤は一瞬立ち止まり、少し考えると「逆だ、いつも通りでいい」と告げた。
そう言ったきり、相澤は背を向けて部屋を出て行ってしまった。
彼の言葉を理解するのに少しの時間がかかる結の前に、扉が開くと相澤と入れ違いにセメントスが部屋に入ってきた。
セメントスが見守る中、結は「戻るまでに睡眠をとるように」と釘を刺され、言われた通りに時間まで身を休めることにした。