第10章 気になるあの子
「寝相が悪いなんて、言われたことなかった……ずっと前からなのかな……。そういえば、轟くんはどうしてここに……?」
「指の怪我を治しにきた。あと、お前に謝りてぇことがあって――」
結は耳を傾けながらも、謝られる理由がわからず、心の中でその内容を予測しようとする。
しかし、何も思い浮かばない。
轟が何かを伝えようとしたその瞬間、保健室の扉がわずかに音を立てた。
「すまないね。遅くなってしまった」
入ってきたのは雄英高校の教師、セメントスだった。
無骨な顔立ちと大柄な体格は一見すると威圧的だが、彼の声には穏やかな温かさが滲んでおり、表情も柔らかく優しさを感じさせていた。
「待たせてごめんね。そろそろ授業が始まるから、君は教室に戻った方がいいよ」
時計の針は五限目の授業が始まる直前を指しており、轟は未練を残したまま保健室を後にした。
そして、足音を立てず、ゆっくりとした動きでセメントスがベッドの傍に歩み寄る。
結は頭の痛みを押さえながら、軽く布団を畳んで靴を履いた。
仮眠のおかげで楽にはなったものの、鈍い痛みがまだ残っている。
居続けるわけにはいかないと思いながらも、体が完全に回復していないことを自覚していた。