第10章 気になるあの子
結は痛む頭を押さえながら布団を軽く畳み、靴を履いた。
仮眠を取る前よりも幾分か楽になったものの、まだ痛みは残っていた。
居続けるわけにはいかないと考えた結は、少しでも早くこの場を離れようとしていた。
「まだ寝てていいよ。授業が終わる前に起こしてあげるから」
「いえ……人前で寝てる姿を晒せなくなったので……」
「大丈夫、気にしないよ。それと、君に用事がある人がいてね」
「私に……?」
セメントスは大きな手で結の行動を阻止し、見守りながら話を続けた。
轟が座っていた椅子に腰を下ろすと「まだ時間がかかると思うから、座りながら待とう」と少しだけ苦笑いをした。
結はセメントスの言葉を受け入れ、人を待つ心の準備を整えた。
リカバリーガールが用事を終えて戻ってくるのか、それとも他の教師が訪れるのか、結は心の中で考えを巡らせる。
おそらくは担任の先生、とたどり着いたその時、セメントスは音が鳴った扉の前に立ち、誰かの到着を待っていた。
「良かった。無事に来てくれて」
「しょ……相澤、先生」
予想通り、来客者は相澤だった。
彼はどこか厳しさを帯び、怒りのオーラを纏っているように見える。
結は心の中で身を縮め、顔色が青ざめていった。
しかし、セメントスはそんな微妙な空気に気づかぬふりをし「少し席を外しますんで」とにこやかな笑顔で退室していった。
「リカバリーガールに叩き起こされてな。身体中、痛くて仕方ない」
「そ、それはお気の毒に……」
相澤は結のベッドの真正面で仁王立ちし、言葉に威圧感を含ませていた。
結は困惑しながらも他人事のように反応するが、包帯の隙間から覗く鋭い目に睨まれてしまい、反射的に口を閉じた。
威圧感に押されるように、結はろくに目を合わせることすらできず、思わず視線を逸らしてしまう。
口ごもる結に対し、相澤は苛立ちを隠さずに長く息を吐いた。
「だから言っただろ」
その声色は態度とは裏腹に随分と柔らかいものだった。
相澤は結と視線が合うように、その場にしゃがみ込んで目を見つめた。