第10章 気になるあの子
「紙で指切ったんで、絆創膏をもらいに」
「どれどれ……深くは切れてないね。はいよ、自分で貼れるかい?」
彼女は二つ並べられたベッドのうち、ひとつだけカーテンで仕切られている場所から顔を覗かせ、手際よく絆創膏を取り出す。
轟はそれを受け取り、傷口に貼りつけた。そして、視線は自然とカーテンの向こうに引き寄せられた。
隙間から見えるのは、もうひとつのベッド。
その上で誰かが横たわっている。
予感が確信に変わるまで、時間はかからなかった。
「そうだ。アンタさん、この子と同じクラスだったね」
「え、はい」
カーテンがゆっくりと引かれ、昼下がりの光が一筋差し込む。
そこには、光の中で静かに眠る結の姿があった。
体の輪郭は薄いシーツに包まれ、肩まで毛布が掛けられている。
小さく揺れる呼吸が眠っていることを示していた。
「ちょいと急用ができてね。ここを離れないといけないんだけど、代わりの教師が来なくてねぇ。少しの間、この子の様子を見ていてくれないかい?」
轟の視線が結とリカバリーガールの間で揺れる。
迷いを浮かべた瞳の裏で、リカバリーガールは流れるような動きで、轟の手元にあった来訪者記入用のバインダーを手に取っていた。
「そこの椅子に座って、近くにいておくれ。この子、誰かがいないと寝相が悪くてね」
冗談めかした言葉を残し、彼女は颯爽と保健室を後にした。
扉が閉まると、部屋の中には余韻だけが残る。
轟は遅れて椅子に座り、目の前の寝顔を見つめた。