第10章 気になるあの子
先程から気になっていた疑問が、ついに轟の口からこぼれ出た。
結の顔色は未だに赤みを帯びており、それどころか話が進むにつれてさらに赤くなっていく。
轟はドクリと胸の高鳴りを感じたが、気に留めず「意外だな」と付け加えた。
その視線は恥ずかしそうにする結に注がれていた。
「……も、もしかして、ずっと見てたの?」
「いや、見てねぇけど、さっきリカバリーガールが言ってたから」
「リカバリーガールが……!?」
結の動揺は隠しきれなかった。
さらに顔を赤らめ、思わず口元を押さえる。
轟はそんな様子を見ながら、リカバリーガールがこの部屋にいない経緯を話した。
少なくとも彼女は見ていたのかもしれないと、もしそれが事実なら、家での寝相も改善しなければと結は真剣に考え始めた。
頭の中で冷静に考えようとするも、まだ少し熱が残っているようだった。
「今まで寝相が悪いって言われたことなかった……どうしよう、ずっと前からかな……そ、そういえば、轟くんは何で保健室に……?」
「指の怪我、治してもらいにきた。あと、お前に謝りたいことが――」
轟はどこか気まずそうに言葉を選びながら話し始めた。
その声には、何かを言い出すための勇気が必要だったのが感じられた。
だが、結はその内容が気になると同時に、謝罪されるような覚えがなかった。
もう少しで話出そうとした瞬間、保健室の扉が微かな音と共に開いた。
「すまないね。遅くなってしまった」
入ってきたのは雄英高校の教師であるセメントスだった。
直方体の顔と大柄な体格は一見すると威圧的だが、彼の声色と表情には優しさが滲み出ている。
今朝の授業で教わった分かりやすい講義が頭に浮かんでいた。
セメントスは結の近くに立ち、轟の方へ視線を送った。
彼の足音はほとんど無音で、教室内の静寂を乱さないように気を配っていた。
時計の針は五限目の授業が始まる直前を指しており、保健室内には時間の流れを感じさせる静かな緊張感が漂っている。
謝罪の話が明らかになることはなく、轟はそのまま立ち上がると部屋を後にした。