第10章 気になるあの子
「様子見てろって、急に言われても……」
しかし、次第に風が外から強く吹き込み、保健室内の静寂が破られた。
風に煽られて窓辺のカーテンが激しく揺れ、棚に置かれていた書類や小物がバタバタと床に落ちていく。
その音に一瞬驚き、轟はようやく我に返った。
立ち上がって窓の鍵を閉めに向かうと、さらにいくつかの書類が床に落ちてしまった。
轟はそれを拾い上げ、元の位置に直しながら少しだけ息を吐いた。
動いた椅子の音や物を元の位置に戻す音が保健室の静寂を切り裂き、続いて何かが聞こえたような気がした。
振り返ると、結が身動ぎをしてゆっくりと目を開ける姿が目に入った。
まだぼんやりとした意識の中で、周囲の変化を感じ取ったのだろう。
結は静かに瞬きを繰り返しながら、目の前にいる轟の姿を認識し始めた。
「悪い、起こしちまったか?」
「……しょうた、さん」
「しょうた? 俺はしょうとだ」
轟は一文字違いの名前に反応して冷静に訂正するが、微かな驚きが込められていた。
単純な間違いが、結がまだ目覚めていない証拠であることを確信させるには十分な理由だった。
「同じクラスの、轟焦凍」
「……と、轟くん?」
結の目は半分眠そうに、瞬きを繰り返していた。
意識が次第に戻る中、轟の姿が徐々に現実のものとして認識され始める。
数秒の間に状況を整理し、結は驚きのあまり布団から飛び起きた。
「嘘……ご、ごめん、勘違いしてて……」
覚めたばかりの頭が徐々にはっきりと鮮明になる。
顔が熱くなり、思考が空回りする中で「聞かなかったことにしてほしい」と呟いた言葉は、なんとか聞き取れるほどの声量だった。
結は肌掛け布団をずるずると引っ張り、口元を隠した。
気まずい空気が流れる中、轟は静かに椅子に座り直し、結の顔を覗き込んだ。
「なあ、お前って寝相悪いんだな」
「え、寝相……?」