第1章 転生したら悪役令嬢でした
「彼の事をそう言えるのは、フェリシアくらいだろうな。」
「どうして?」
「その内分かる時が来るよ。ただ、彼がフェリシアを見初めたのは事実らしいね。」
「見初めた?」
「今まで一度たりとも、二度目の招待を口にしたことは無かったそうだよ。」
そうなのか。あんなに気遣ってくれる、優しそうな人なのに。
「まぁ、向こうも急いでいない様だから、ゆっくり詰めていけばいいよ。途中で嫌になれば、その時にそう言えばいいから。」
「お父様は大丈夫なのですか?」
「フェリシアは優しいなぁ。でも、問題ないと侯爵様からもお墨付きは得ているから大丈夫だよ。」
それならいいのかな?まぁ、またと言っても社交辞令かもしれないし、そんなに早々次があるとは思えないし。
そう思っていた悠長な私は、その七日後に二度目の招待状が届いて軽く眩暈を覚えた。因みに、この時もまだ王子の婚約者は正式に決まってはいなかった。
そんな事をしている内に、二度目のお茶会に伺った私。今回は、一人で招待を受けることになった。二度目なのに、前回と同じ大きなお屋敷を見上げていたら、和やかな執事に誘導されて東屋に通された。
またしても、先に人待ちの彼がいた。前回のこともあったので、軽い挨拶で声を掛けた。
「こんにちは。クライン様。」
「来てくれて嬉しいよ。それと、私のことはアルベルトと呼んで欲しい。キミの事は、フェリシア嬢と呼んでもいいだろうか?」
「はい、勿論です。」
「良かった。それで、それは?」
私が手にしていた、籠の事を尋ねられた。招待のお礼も兼ねた、お菓子持参で訪れた私。
「お菓子です。」
「何処かの店のものなら・・・。」
彼は持ち込みのものは食べない事は聞いていたので、私が自ら前世の記憶を駆使して作った手作りの細長いクッキーにほろ苦いチョコをまぶしたものを披露しては早々にこう言った。
「私が作りました。」
「フェリシア嬢が?是非、いただこう。」
お菓子が嫌いではないと教えて貰っていたので、私は拒否される前に自己主張しておいた。
今回も違うハーブティーを頂きながら、彼は直ぐにそのチョコ菓子を口に入れた。
「ほろ苦い味が私好みだ。」
心の中でガッツポーズをした私。
「気に入って貰えた様で良かったです。」
「あぁ、美味しいよ。」
面白い様に減っていくお菓子。最後は、名残惜しそうにみえた。