第1章 転生したら悪役令嬢でした
「すまない、つい夢中で食べてしまった。」
「いいえ、残されるより嬉しいですから。」
「あ、その・・・持ち込みの菓子を食べない理由は聞いているのか?」
「はい。だから、断わられても仕方ないとは思っていました。だから、食べて貰えて嬉しいです。」
「・・・フェリシア嬢は不思議だな。私と違って、余裕がある様に見える。」
まぁ、確かに元は十八歳だったからね。そう見えても仕方ないかな。でも、彼も十分落ち着いていると思うけど。
「そんな事はないですよ。私も緊張していますから。」
だって、粗相があってお家お取り潰しとか困るもの。後でお父様に聞いたら、王城で結構立場のある存在だと聞いていたから。
「私では、物足りないだろうか?」
「えっ?それはどういう・・・。」
アメジストの瞳が、私をジッと見詰めていた。
そして、スッと手が伸びて来ては、私の髪を一束握り締めては口付けた。その行為に私は過剰に驚いて、頬が赤く染まって行った。
「今は、これで十分か。」
何やらご機嫌な声色で、私の頬を一撫でしては残りのハーブティーを飲み干した彼。
何って末恐ろしい十歳なの。
我に返った時は、帰りの馬車の中だった。あの後の事は、よく覚えていない。ただ、私の脳内に滲み込ませる様に次は散策にでも行こうと言っていた。
頭の中は、彼のことばかり。これも彼の采配の賜物なのだろうか?十歳にしてやられるなんて・・・。前世では、恋愛に奥手だったものなぁなんて思い返していた。
平凡に生きて来た私だったことを思い出して、軽く凹む私。十歳とは言え、あの家柄であの美貌だものなぁ。相手なんて選び放題だろう。
それなのに、ゲームには無かった名前だ。つまり、攻略相手ではない。この数年後にヒロインが現れる訳だけど、一体、誰と恋愛するのだろう?
まさか、逆ハー狙い?そんなことになったら、国が滅び兼ねないかも。物騒極まりないなんて思いながら、数日大人しく我が屋敷でお煎餅を作っていた。そう、お煎餅である。理由?私が食べたかったから。
「んっ、やっぱりお煎餅よね。美味しっ・・・!!?」
視線を感じて振り返って私は目を見張った。
「ア、アルベルト様っ!!!」