第1章 転生したら悪役令嬢でした
やっつけ仕事の誕生会から二週間程の日が過ぎた。急に深刻そうな今世のお父様から、一通の招待状を渡された。名前を見たが、誰かなんて分からない。不思議な顔でお父様を見返していた私に、お父様はこれまた私に負けない不思議そうな顔をしていた。
「随分、会話を楽しんだと聞いていたけれど違うのかい?」
「えっ?」
「えっ?」
二人で暫し、見詰め合っていた。
「クライン侯爵様が、ご子息からそう聞いたと言っていたのだが。」
「クライン侯爵様って?」
「えっ?」
「えっ?」
何となく、会話が噛み合っていない。
「先日の、王子の誕生会で会ったのだよね?」
「誕生会?・・・あっ!!」
そう言えば、思い出した。知らない誰かと会話した事を。誕生会が終わるまで二人で話し込んでいた。でも、お互いに名乗ってはいなかったはず。なのに、相手は私を知っていた?
その事をそのままお父様に話せば、得心がいったとでもいう様に笑顔になった。
「クライン侯爵家は、品行方正で人徳もあるお方だよ。ご子息もご当主に似て、聡明だと聞いている。気が合ったのなら、一度、招待を受けてみたらどうだい?王子の婚約はまだ正式に決まってはいないから、その為にも憂いは取り除いておいた方がいいよ。」
それって、他の誰かと婚約しろと言っている様なものだと思ったけれど、それは敢えて突っ込まなかった。確かに、会話は弾んだと思うし悪い印象は受けなかった。
「軽い気持ちでいいんだよ。」
そうだよね。まだ、十歳だもの。そんなお父様の後押しもあり、再会したのは招待状を貰った三日後だった。
初めての招待と言うことで、お父様と一緒に訪問することになって一安心。同じ伯爵家の同世代の令嬢との茶会は何度か行った事があるくらいだったから。
いざ、侯爵家に行って見れば、感嘆の声しか出せないままとんでもない大きな屋敷を見上げて呆けてしまっていた私。
クライン家の執事が出迎えてくれて、直ぐに応接室へと案内してくれた。ただ、私だけは外にある東屋へと連れられて行った。
その東屋は、薬草が綺麗に咲き乱れた中にあった。そして、既に人待ちだった彼がいた。
「この度は、ご招待いただきっ。」
「堅苦しい挨拶は必要ないよ。さぁ、こちらに掛けて。」
「ありがとうございます。」
席に付いて、彼は仕切り直しとばかりに微笑みを浮かべた。