第1章 転生したら悪役令嬢でした
しゃがみ込んでカモミールを見ていた私の隣りに、同じ様に腰を下ろした誰か。変わらず脳内が大変なことになっている私に、変わらず話しを続ける誰か。
「キミは、王城の薔薇園に興味はないのか?」
流石に、真横にいる存在を無視出来るメンタルはなかったので、当たり障りない返答を返した。
「そ、そうですね。」
そう返答した後、暫し、隣りから物凄い視線を感じる。怖くて視線すら向けられない。泣きそうになった時、こう言われた。
「キミは・・・王子の元には行かないのか?」
その言葉で、傍にいるのが王子ではない事に気付けた。
「め、滅相もない。私なんて分不相応です。」
「そう自身を卑下しなくとも、キミは十分愛らしいと私は思うが。」
吃驚した私は、思わず隣りの人に視線を向けてしまった。すると、丹精な顔立ちをしたアメジストの瞳と視線が合わさった。
年齢は今の私が十歳。この人も同世代。そんな年頃の男の子が、こんな歯の浮く様な言葉を使うなんて。
「お、お世辞でもありがとうございます。」
無難な返答をしたと思ってたのだけど、どうやら相手は少々気を悪くした様だ。一体、何に機嫌を損ねたのか分からない私は怯えた顔をしたのだと思う。
彼は直ぐに表情を変え、怯えさせてすまないと謝罪してくれた。その後も、二人で薬草園で他愛もない会話を続けた。そんな事をしている内に、何処からか誕生パーティーが終わったのだと声が上がった。
安堵の息を吐いた私は、急に目の前に差し出された手に驚いた。いつの間にか立ち上がっていた彼が、私に向かって手を差し伸べてくれていたからだ。お礼を言っては、その手を取り立ち上がった。
「終わった様ですね。」
「あぁ、楽しい時間だった。」
どうやら、私との会話が楽しかったらしい彼は、最後に少し微笑みを浮かべていた。その場で分かれ、私は馬車に揺られて屋敷へと戻っていた。
王子の誕生会をやっつけ仕事の様に終えて、安堵しては今日の夕飯は何だろうなんて気楽に考えていた。実際、それから数日間は平穏で楽しい毎日だった。
王子は宰相の娘と婚約をすると噂になっていて、私は安心していたんだ。これで断罪を免れる。でも、油断はしない様にしようと決意を新たにしていた。