第5章 ピクニック
吸い込まれそうなその綺麗な瞳に、私の顔が映っている。仄かに微笑むアルの口元が何故かドキッとさせられ、つい・・・そう、つい自らアルにキスしていた。
初めてだったと思う。アルがこんなに吃驚した顔をしたのは。でも、凄く幸せそうで笑ってくれたから間違ってはいなかったんだと思う。
ただ、お返しとばかりに屋敷に到着するまでの時間、磁石もビックする程の密着と唇が腫れそうな程のキスの時間となったのだけど。
その夜。楽しかった思い出と、帰り道のアルの執着に幸せを噛み締めていた。
「アルに、もう会いたいなぁ・・・。」
そう言葉にしては、笑ってしまう。
ただ、穏やかに行かないのがゲームのストーリー。
ピクニックから数日後のこと。広場でヒロインを囲う王子筆頭に攻略者たち。ヒロインは泣いていた。今の私はヒロインに嫉妬する事もないし、意地悪も虐めもしていない。
でも、誰かがヒロインを悪役令嬢の代わりに何かしたのかもしれない。ヒロインに対する虐めやヤッカミは、確かに存在した。高位の貴族令嬢たちに悪態をつかれているところを、数度見掛けた事がある。巻き髪の令嬢たちを見て、生の縦ロール!!なんて感動していたのだけど。
今の私は、メリアとイリスと移動教室から戻っているところだった。二人もヒロインに気付いた様だけど、何も言うことはなかった。
が、急に盛大に泣き出したヒロインに、周りのギャラリーが興味津々で注目していた。あんな場所でワザとかと思う様な超音波並の鳴き声にドン引きしつつ、私たちは早々にその場から離れた。
こんな状況のお膳立てってことは、きっとゲームなら攻略者とのフラグが現れるものだもの。だから、少しも関わりたくない私は迷子にでもなった様にアルを探した。
得も言われぬ恐怖が、背後から襲って来る様な感覚に呼吸が荒くなり指先が冷たくなっていく。やっとのことでアルを見付け・・・。
「アルっ!!」
叫び声の様な声になっていた私の声を聞いたアルは、顔色を変え直ぐに抱き締めてくれた。友人の二人も、アルの存在にホッとしてくれていた。二人には、ヒロインからの友達になりたいという話しをしてあったから普段から気遣ってくれていた。
「フェリシアを気遣ってくれてありがとう。後は私が引き継ぐから。」