第5章 ピクニック
校舎裏の人気のない場所に、私たちは来ていた。どうやら、私は震えていたらしい。
「あ~、クライン家冥利に尽きる。フェリシアが可愛い。」
呪術でも唱えているかと思うアルの、「フェリシアが可愛い」の連呼に私の心は落ち着きを取り戻していった。
「ア、アル?もう大丈夫だから、離して貰える?」
「ハッ?嫌だけど。」
「えっ、で、でもっ・・・。」
「全部話した後ででもいいだろ?何があった?」
アルの腕の中で、私は心の内を晒した。名実と共に、私が感じた不安でさえも、
「分かった。大丈夫、何も問題ない。フェリシアが私のものだと言うことは変わらないし、クライン家が変えないから。」
「どういう事?」
「母上が、フェリシアを気に入っているんだ。つまり、母上至上主義者の父上が、私の伴侶としてフェリシアを貰い受けると母上が思っている以上、結論は変わらない。」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど・・・。」
「守るから。」
突然、真顔になったアルが私の顔を覗き込んでそう言った。
「アル・・・。」
「フェリシアが好きだ。」
「うん、私もアルが好き。」
結局、その後もアルの執着は終わらなかった。授業中だと言うのに、距離が近い。間違いなく、アルに火を点けたのは私なのだけど。
そう言えば、ヒロインは泣き腫らした顔をしたまま授業を受けていた。青髪攻略者がヒロインを気遣っているみたいだけど、王子は無言で真顔のままだった。
ゲーム攻略者として絶大な人気を誇った王子だったのに、今の王子は万人に優しくもないし万人を気遣ったりすることもなかった。
それに・・・悪役令嬢の私は、メンタルが弱い。直ぐにアルを頼ってしまう。そんな私をアルは、いつだって受け止めてくれる。アルが私にとって王子様だ。
私は何とか自立したいのだけど・・・そんな事をアルに言った時もありました。でも、アルには必要ないって言われて今に至ってます。好きな子には頼られたいそうです。
こんなに甘やかされたら、自立なんて夢のまた夢かもしれない。アルの私に対する距離の詰め方、尋常じゃないものね。
チラッと隣りを見れば、私を見ていたアル。目を細めては、優しく背を撫でられた。大丈夫、私が付いてるって言ってくれているみたいに。
授業が終わり、そんな私たちはモーリスたちに揶揄われたのは言うまでもない。