第2章 容赦ない距離の詰め方
「噂で聞いたことないか?クライン家の人間は、代々他人に興味がない分、伴侶には持て余すほどの愛情を注ぐって。」
「愛情?」
「だから、結末は変わらないしあんなヤツらに後れを取られる事にはさせない。」
熱を帯びた眼差しは、十歳の子供には思えなかった。
「まぁ、でも・・・好きな人に嫌われるのは、私も怖い。執着を止められないし止めようとは思わないけど・・・フェリシア嬢には嫌われるのは、怖い。」
自嘲染みた表情を浮かべる彼に、年相応の思いが垣間見えた気がした。
「も、もし・・・私が承諾しても、浮気して私を捨てたりとか・・・。」
「それ、クライン家に対する挑戦状って思っていいのか?浮気処か余所見もないし、ましてや捨てるなんてありえない。私の気持ちを疑う事なんてないくらい、フェリシア嬢が私を受け入れてくれたら私の全てをあげるよ。」
私の全てをあげるよ・・・
前世十八歳の私は、齢十歳の彼に堕とされました。私って、チョロいのかもしれない。
私だって、大恋愛に憧れる気持ちはある。それが、未来に超イケメンでスペックの高い人が、私にだけ心を預けてくれるなんて・・・。
「好きだよ、フェリシア。」
「も、もう・・・一々、恰好良すぎるんです。」
「好きな人に思って貰わないと意味がないから。」
そう言って、初めて屈託のない笑顔を浮かべた彼。
「じゃあ、善は急げって言うから直ぐに婚約を申し込みに行くよ。明日でもいい?」
えっ、展開が早い。承諾はしたけど、少しほんの少しだけ時間が欲しい・・・なんて言ったら、至極当然の様に却下された。考える時間なんて意味が無いって言って。
クライン家の執着は、想像以上でした。我が両親は、ちょっとドン引きしてた気がする。でも、愛おしそうな目で私を見ている彼を見て、祝福してくれた。
婚約は私が承諾した二日後には、決定される迅速さ。彼のお父様も、そういうものだと言っていたくらいだし。ただ、お母様だけは私の心中を慮ってくれていた様だけど。
そんな結果となって、少し油断していたのかもしれない。彼と待ち合わせとして選んだ宝飾店で、あれだけ避けていた王子と・・・あの赤髪攻略者とご対面となった。