第2章 容赦ない距離の詰め方
「さて、今日はこの辺にしておこうか。考える時間は必要だろうから。あぁ、そうだ。次に街に行くときは私を同伴して欲しい。いいね?」
「は、はい。」
彼はご機嫌で帰って行った。自室に戻って、フト考える。
「次に街に行くときは、同伴って言った。」
確かに、数日前に街へとショッピングに行った。メイドと二人での外出だった。そして、店員から少し前に王子が近くに来ていた事を聞いた気がする。ご対面とかにならなくて良かったって思っていた。
後は・・・
「何処かの貴族の子息に、髪留めをプレゼントされそうになって・・・断ったけど。何か、見た事のある様な顔だった気が・・・。」
赤髪に琥珀色の瞳だった。
「あっ!!思い出した・・・。」
どうでもいい事だったから、気にしなかったけどあの時の赤髪の子息は・・・。
「攻略相手・・・。」
思わず身震いする私。王子が私を断罪する時に、私を抑え付けた人だ。正確にいうと、ゲームの中の悪役令嬢にだけど。えっ、ちょっと怖い。何か、最後まで諦めてない様な顔してたし。
彼はその事を知っている気がするから不問にするけど、あの攻略相手は将来の王子の側近の一人だ。絶対にお近づきになんてなりたくない。断言出来る。
あの攻略相手は、彼と同じ侯爵家の家柄。でも、もし何かあったら当家なんて・・・。い、嫌、まだ何か起こった訳じゃない。
彼が急に距離を詰めて来た理由は気になるけど、まだ・・・まだ?
あの日から、今日の彼との街散策の日までその事ばかり考え込んでいた。生きた心地がしない日々を過ごしていた私にとって、彼は泣いて縋りたい相手だけどこんな理由で縋るなんて失礼過ぎる。
「・・・難しい顔をしてるな。」
「えっ?」
「ずっと、眉間に皺があるし、最近眠れていないのだろう?目の下に隈が見える。」
確かに、自覚はある。
「フェリシア嬢になら、使われてもいいと思っているのだけど。」
「えっ、使うって・・・そ、そんな・・・。」
「そうだな・・・もういいか。諦めて私のものになればいい。どうせ、結末は同じだから。」
「結末?」
「家の権力使ってでも、フェリシア嬢を私のものにするから。」
「はい?」
不敵に笑うアメジストの瞳が私を見ていた。