第2章 容赦ない距離の詰め方
赤髪攻略者から、気安く声を掛けられるまで存在に気付かなかった私。存在を知って、心の中は騒々しい。そして、彼はまだ現れない。今回は、この近辺で彼の所用があるとのことでこの店で待ち合わせとして選んだのだった。
「先日ぶりだな。買い物か?」
「え、ええまぁ。」
「アルフォンス、そちらの令嬢は知り合いか?」
後から現れたのは、見間違えることのない王子のご尊顔だった。ゲームの世界より若いが、金髪碧眼の容姿は間違えようがない。
「はい。先日、ある店で出会いまして。」
「そうか。」
チラッと私に視線を向けた王子。私は蛇に睨まれた蛙の様に身体が硬直していた。
「美しい髪だな。名は何という?」
「殿下、ダメですよ。私が先に見つけたんですから。それに、殿下には婚約者がいるではないですか。」
「まだ、正式なものではない。」
この言葉に、余計に身が縮こまる。
嫌だ、怖い・・・。怖いっ!!
「お待たせ、フェリシア。」
背後から聞こえてきた声に、私は条件反射の如く彼ことアルベルトに抱き付いた。一瞬だけ、目を見開いたアルベルトだったが、直ぐに愛おしそうに私を抱き入れた。
「お前は確か、クライン家の・・・。」
「アルベルトと申します。そして、彼女は私の婚約者のフェリシアです。少々、人見知りなところがありまして我が婚約者が失礼致しました。」
「婚約者?」
怪訝な声を出したのは、赤髪攻略者ではなく王子その人だった。
「えぇ、婚約を結んだばかりです。今日は成人までの婚約の証とした宝飾を求めにこちらに参りました。」
「・・・そうか。」
「あの・・・本当に婚約を?」
そう尋ねて来たのは、赤髪攻略者だった。
「確認して貰っても構わない。」
「そ、そうか・・・。」
明らかに落胆した声に、私の身は余計に固くなった。そんな私の髪を撫で、優しい声で奥に行こうと声を掛けてくれたアルベルト。
王子は帰る最後に、振り返り私を見ていたことに気付くことはなかった。ただ、冷やかな眼差しで王子を見ていたアルベルトに気付き、早々に店から出て行った王子。
この後の、婚約の宝飾品を見て、別の意味で神経がすり減ったのはいうまでもない。流石、クライン家とだけ言っておこう。