第17章 足掻く者に蓋をする
アルの口元に弧が浮かぶ。
「アル、頑張ってね?」
「完膚なきまでにヤッってくる。」
そのヤるのが、本当の意味ではないことを祈る。
先生の掛け声と共に、二人の対峙が始まった。先に突進していったのはゼフ。それを簡単にいなしているのはアル。
「あれじゃあ、子供と大人みたいだな。」
「クラウドがあんな者を従者にしたのが悪い。」
「アレでも、最初はいいヤツだったんだけどなぁ。」
「恋は人を変えると言います。」
皇子や従者二人がそんな会話をしている。
ゼフは圧している事で、自分の方が優勢なのだと思っているらしい。どうしたのだろう?いつもなら、こんな風に黙って圧される事なんてないのに。
・・・ん?そう言えば・・・。あの剣術大会のことを思い出した。
「ア、アル頑張って!!」
どうやら、私の思惑は当たっていたらしい。だって、声援をした直ぐにゼフの剣は空を舞っているのだから。茫然とするゼフに、アルは近付いた。
「貴様は、クラウドと共倒れになるつもりか?」
「共倒れだと?何をっ」
「あぁ、まさかと思うが従者が主に守って貰おうと思っているのか?」
アルの言おうとしている意味が分かったらしく、顔を真っ赤にしては激高したゼフ。しかし、アルは何一つ表情も変えないまま言葉を続けた。
「何故、そうも怒る?今のお前には、クラウドを守る事は疎か、時間稼ぎですら無理だろう。貴様の方こそ、女に現を抜かすから、今のお前なんじゃないのか?」
どうやら、ゼフの地雷を踏んだらしいアルに、ゼフは殴り掛かった。しかし、それも簡単に身をかわしては足払いをして転んだゼフの背を踏みつけたアル。
「あぁ、アルベルトが容赦ない・・・。」
アルはついでとばかりに、ゼフの背中をグリグリと踏みしめている。先生は皇子の前だからか、アルの行動を止めない。そして、肝心の皇子は・・・目が冷たかった。
「アルベルト、それくらいにしろ。」
初めて耳にした冷たい皇子の声。しかし、アルはゼフの背から、足を退けないまま皇子に視線を向けた。
「約束は?」
「それ以上の事をしてやる。」
この時になって、アルは足を退けては私の元に戻って来た。
「ただいま、フェリシア。声援のお陰で頑張れたよ。」
誰もが、絶対違う!!そう思っただろう。そして、皇子もこの時にはいつもの表情に戻っていた。