第1章 私だけを囲うひと
ふふ、いつも優しい光秀さん大好き。
私は心の中でそう呟いた。
すると、頭上で小さく笑う声がした。
「……本当に、分かってないのだな」
「なにがですか?」
「いや」
髪に口づけが落ちる。
軽く、柔らかく触れてくれる。
けれどその手は、私を逃がさない。
「お前が俺を優しいと思うのなら、それでいい」
光秀さんは、そうさらりと言う。
でも次の言葉は、少し低かった。
「その代わり」
顎を持ち上げられ、視線が絡んだ。
「俺以外に、その顔を向けるな」
「え?」
「笑うな、とは言わないが」
そう言って、また微笑んだ。
「だが……あまりに無防備すぎる」
親指が、ゆっくり頬をなぞる。
「俺は優しいが、他の男もそうとは限らんからな」
その言い方に、ほんの少しだけ棘が混じっていることに、私は気づかなかった。
「でも、光秀さんが守ってくれるのでしょう?」
そう言って笑うと、今度は本当に目を細めた。
「……ああ」
囁きは、甘くて優しかった。
「守るに決まっているだろう」
腕が背に回り、ぴたりと身体が重なった。
「お前が気づかぬなら、なおさらだ」
「ん?」
「何でもない」
くす、と笑う。
けれどその視線は、廊下の奥へ向けられていた。
誰かがこちらを見ていた気配を感じる。
——もう二度と近づかせない。
そんな決意が一瞬だけ宿る。
でも、私は知らない。
ただ、温かい腕の中で安心しきっていた。
「光秀さん、今日はいつもより優しいですね」
「……今日は、ではない」
耳元に声が落ちる。
「いつもだ」
抱きしめる力が、ほんの少しだけ強くなったことに違和感を感じながらも、私は微笑んだ。
——気づかぬのは、お前だけだ。