第1章 私だけを囲うひと
そのまま、光秀さんに手を引かれる。
「少し歩くか」
「え?用事があるのですか?」
「今できた」
さらり。
でも、握る手は離さないままだった。
廊下を歩きながら、光秀さんは私を見る。
柔らかい目が温かい。
けれど奥に、静かな熱を感じるのは気のせいかな…。
「先ほど、俺の名を何度も呼んでいたな」
「はい。だって、優しいって話していたので」
「そうか」
ふ、と笑う。
「ならば、もう少し優しくせねばな」
距離が近くなり、壁際に追い込まれる。
けれど声は甘くて、混乱する。
「俺がどれほど優しいか、今宵改めて教えてやろう」
「え?」
頬に軽く口づけられる。
「……他の男の前で、ああして俺のことを語るな」
低い声。
けれど怒っていないのは、すぐにわかった。
「なぜですか?」
本気で分からない私に、光秀さんは小さく息を吐く。
「お前は本当に、分かってないな」
呆れた声。
でも指先は優しく、私に触れたまま答えた。
「まあ、いいだろう」
額に唇が触れる。
「分からないなら、分からないままでいい」
そう言って、抱き寄せられる。
光秀さんは、いつだって温かい。
私もそっと腕を回した。
「その代わり、この笑顔は俺が独り占めさせろ」
私はきょとんとして、笑ってしまう。
「そんなことでいいの?光秀さんって、ほんとに優しいですね」
ほんの一瞬。
光秀さんの目が細まる。
「……ああ。優しいだろう?」
抱きしめる腕が、わずかに強くなった。