第1章 私だけを囲うひと
「何の話をしていた?」
優しい声。
私は思わず微笑んでいた。
でも、家康は小さく息を吐いて横を向いた。
「別に。あなたの話ですよ」
「ほう?」
光秀さんの目が細まり、私は慌てて口を挟んだ。
「違うの、私がね、光秀さんって本当に優しいのに、みんなわかってくれないって言ってただけで——」
「ああ」
すこし間のあと、ふっと笑った。
「それは困ったな」
光秀さんの微笑みが深くなる。
でも腕の力は、ほんの少し強くなったような気がして私は戸惑った。
「……光秀さん?」
「葉月がそう思っているなら、それでいい」
さらりと言う。
けれど視線は、家康へ向けられていた。
家康は、すぐさま肩をすくめた。
「俺は帰る。巻き込まれたくない」
「賢明だな」
ひらり、と光秀さんが笑う。
家康が去ったあと、私は首を傾げた。
「どうしてみんな、あんな顔するのかな」
「さあな」
指先が頬に触れる。
「お前が無防備だからではないか?」
「え?」
「……いや、なんでもない」
嘘だ。
でも私は気づけない。
光秀さんは、いつも最後まで教えてくれないから。