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イケメン戦国《私だけを囲うひと》

第7章 戯れの口づけ




「怒ったのか」

後ろから声が追いかけてきても、私は振り向かなかった。

「怒ってません」

「ほう」

足音が近づき、また腕を掴まれた。

「ならば、どうした」

低い声がすぐ近くで落ちる。

「……放してください」

「断る。そんな顔をして帰られては、俺が悪い男のようではないか」

「十分そうです」

そう言うと、光秀さんはまた笑った。

「それは心外だ」

そう言いながら――
指先が、ほんの少しだけ優しくなる。
けれど、それに気づいたら負けるような気がした。
私は、光秀さんの腕を振り払った。

「……もう、からかわないでください」

光秀さんの手が、空を切る。

「おや?」

いつもの、面白そうな声。

「からかっているつもりはないが」

「嘘です」

振り返らないまま言う。

「光秀さんは、いつもそうです」

「いつも?」

「誰にでも優しくして、こういうことも……きっと平気でする」

胸が痛くなる。
言いたくはなかった。

「……私は、そういうの好きじゃありません」

少しの沈黙。
そのあと、ふっと笑う声が落ちた。

「そうか」

軽い声だった。
まるで本当に、どうでもいいことみたいに。

「ならば、やめておこう」

その言葉に、胸がきゅっと縮む。

「もう口付けもしないし、お前をからかうこともやめよう…それで、満足か?」

振り返れなかった。

「……はい」

やっと絞り出す。

「そうか」

足音が遠ざかる。
それだけだった。

引き止められることもなく、
笑われることもなく。

ただ——
本当に、あっさりと去って行った。


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