第7章 戯れの口づけ
それから数日。
光秀さんとは、ほとんど顔を合わせていない。
廊下の向こうに姿を見かけても、あちらから私を揶揄いにくることもない。
口付けのことすら…
まるで、最初から何もなかったみたい。
…私がいけなかったのかな。
日が経つにつれて、私は後悔していた。
手を払いのけたのは、やり過ぎたのかもしれない。
でも、誰にでもしていることをされるのは嫌だった。
嫌だった…けど。
可愛くてつい、と言われた。
それは本心だと思いたい。
口づけだって、本当は飛び上がるくらい嬉しかったのに。
素直に喜べば良かったのかな。
だから、私は可愛くないのかもしれない。
「どうした?」
不意に声をかけられて、顔を上げる。
そこにいたのは、秀吉さんだった。
「最近、元気がないな」
心配そうに覗き込まれる。
「そんなことないですよ。ただ…嫌われたかもしれないなって考えてて…」
「葉月が?なんで?」
「ちょっと…素直になれなくて」
「喧嘩でもしたのか?そいつと」
「…ううん。たぶん、喧嘩にもなってない気がします」
「そんな悩むなよ。葉月のことを、嫌いになるやつなんていないから。安心しろ…な」
ぽん、と頭を軽く叩かれる。
「……!」
その瞬間。
ふと、視線を感じた。
廊下の向こうに、柱にもたれて立っている影。
光秀さんだった。
いつものように、薄く笑っている。
ただ、それだけ。
けれど、秀吉さんの手が、私の頭に触れたままなのを見て――
ほんの一瞬だけ。
光秀さんの目が、細くなった…ような気がした。
それだけだった。