第5章 宴のあと
——ここで引かなければ。
だが葉月は、
無防備に胸元へ額を預けてきた。
「光秀さん、いい匂い……」
胸の奥が、ひどく軋む。
「酔っているな」
低く、抑えた声。
だが腕は、しっかりと葉月の背を抱いていた。
支えるため。
その名目のまま。
最後の一枚を解くとき、
彼はわざと視線を逸らす。
だが指先は正確だ。
布が落ちる。
白い肌が、行灯の光に淡く浮かぶ。
喉が渇く。
——駄目だ
——今は違う
彼は外した布を肩にかける。
覆うためではない。
隠すためでもない。
「……もう、これ以上は…」
自分に言うように。
葉月は、薄く目を開ける。
「……やさしい」
無邪気な一言。
光秀の目が、わずかに細まる。
「いや…優しいのではない」
そう囁いた。
彼女の頬に触れ、
親指で熱を測るように撫でる。
「お前を囲っているだけだ」
彼女は、意味を理解していない。
そのことが、ひどく甘い。
「さあ、眠れ」
そう言って、額に口づける。
一瞬だけ、だが深い口づけを。
「酔いが醒めたら……後悔するなよ」
それは警告か、予告か。
葉月はもう答えない。
光秀はしばらく動かなかった。
離れるのが惜しいのではない。
自分の内に芽生えた欲を、押し殺している。
守ることと、奪うことの境界で。
——夜に向かって、静かに深まっていった。