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【三月のライオン】瀬音

第2章 綻ぶ蕾


四月の晴れ渡った穏やかな日、私立駒橋高校に入学した。
しばらく経ったある日、担任の林田に呼ばれ職員室を訪れた。
「先生、用事って何ですか?」
声をかけるも何かに夢中で反応が無い。
新聞を握り締め、唸りながらぶつぶつと呟いている。
「先生…?」
諦め半分でため息をついたは、林田の背後から覗き込んだ。
視線の先は、詰め将棋。
盤に配置された駒と、持ち駒が描かれている。
は無意識に数十手先の棋譜を呟いた。
すると、今まで無反応だった林田がゆっくりと振り返る。
「え…お前…え?え?!」
林田は、の呟いた棋譜を復唱し新聞を凝視する。
「…合ってる……お前…これ、これも解いてみろ」
ガサガサと新聞をめくり、目の前に差し出す。
は再び、さらりと棋譜を答えてみせる。
「これ…結構な難易度だぞ…」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ!」
林田は手を震わせ新聞を握り締め問題を凝視する。
「じゃあ、これは」
震える手で差し出した問題も、難なく答える。
「はっ!何なんだよまったく」
「先生…それを言うために呼び出したんですか?」
「悪い悪い。ずっと考えてた問題だから、つい、な」
呆れるに、へらりと笑う林田。
「それにしてもすごいな」
「子供の頃から、おじいちゃんの相手してたくらいですよ」
「いやー。プロにも通じる力量だと思うぞ」
再び新聞を見つめ、頷く林田。
「今度から、将棋の話してもいいか?」
「別に…いいですけど…」
「やった!」
拳を握り、うれしそうな林田。
「で、本題はなんでしょうか」
「あーそうだった…って、何だっけ」
教師とは思えない林田の対応に、は思わず笑った。
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