第1章 祭りの夜
「そんなに思い詰めないでおくれ。桃弥の
血を引く子であれば三久利家の子供で私の子も同然なんだよ」
「………それなら、桃弥さんが結婚をして子を成せば、血は絶えないと思うのですが」
「あの子はうちの戸籍から外れたいと思っているから、結婚しても子供にうちは継がせないだろうね」
意味ありげな笑みを浮かべながら、杏壱さんが続ける。
「お願いだよ。私のわがままを聞いてくれるかい?」
今まで、杏壱さんの言うことに逆らったことは一度もない。
けれど、その要求だけは受け入れることが出来そうになかった。
「……ぃ…っ、いや……嫌です……」
駄々を捏ねる子供のように、顔を横に振って泣きじゃくる私の涙を杏壱さんが指で拭ってくれる。
杏壱さんは私をずっと甘やかしてくれた。
私が本気で嫌がることなんてするはずがない。
今回だって、必死に訴えたら諦めてくれると心のどこかで思っていた。